抄録
末梢に存在する殆どのT細胞は,T細胞受容体(TCR)α鎖とβ鎖を主な構成成分とするT細胞受容体(TCR)によって標的細胞のMHC-ペプチド複合体を認識して増殖し,各種エフェクター機能を呈する.TCR鎖は胸腺におけるT細胞の分化過程で産生されるが,TCR遺伝子再構成と呼ばれるゲノム編集によってその多様性を生ずるとともに,その後の分化において固定したTCRを安定的に発現する.
一方,優れた増殖能と多分化能を持つiPS細胞は,体細胞を初期化して得られる多能性幹細胞である.我々はiPS細胞の樹立過程において体細胞のエピゲノム情報は初期化されるがゲノム情報は維持されることに着目し,抗原特異的な再構成済みTCRを持つiPS細胞を樹立し,そこから同じ抗原を認識するT細胞を再生する手法を報告した.この技術は従来の抗原特異的T細胞の体外増幅が抱える問題点,すなわち抗原特異的T細胞のex vivoへの分離と過度の増殖にともなう疲弊現象(=機能低下)を解決し,大量の抗原特異的T細胞を用いた再生医療の可能性を示した.ウイルス疾患や悪性腫瘍等の治療において抗原特異的な細胞傷害性T細胞の輸注は有望な治療戦略の一つであるし,もし抗原特異的なT細胞サブセットを自由に誘導できれば,臨床応用への貢献は極めて大きいと予想される.
本講演ではiPS細胞を介して誘導した再生T細胞の特徴と再生医療への応用について紹介する.