抄録
Mammalian target of rapamycin(mTOR)はアミノ酸・増殖因子等により調節され,蛋白翻訳や遺伝子転写に関与している.最近では様々な免疫細胞の分化と活性化に重要な役割を果たしていることが明らかになっている.今回,4型のセマフォリンであるSEMA4AがmTOR complex 1(mTORC1)の活性化を通じてCD8+ T細胞の活性化と分化を制御していることが明らかになった.セマフォリンは神経ガイダンス因子の代表分子で,免疫系においても重要な機能を有している.今回着目したSEMA4Aは,樹状細胞ではT細胞のプライミングに関与し,CD4+ T細胞においてはTH1細胞の促進や制御性T細胞の安定性に関与している.しかし,SEMA4Aを含むセマフォリンファミリーのCD8+ T細胞における役割は明らかになっていない.そこでSEMA4A−/− CD8+ T細胞を解析したところcytokineの産生能とeffector分子の誘導能の低下を認めた.Listeria monocytogenes-OVAをSema4A−/−マウスに感染させると,抗原特異的CD8+ T細胞の割合が低下していた.さらに,SEMA4A−/− CD8+ T細胞では mTORC1の活性化が低下してmTORC2の活性化が上昇していたことから,SEMA4AがCD8+ T細胞においてmTORC1の活性化に必要であることが示された.また,Plexin B2がリガンドであるSEMA4Aの機能的受容体であることも分かった.以上のことから,CD8+ T細胞においてSEMA4AがmTORC1シグナルを介して活性化と分化に関与することが明らかになった.