2016 年 39 巻 4 号 p. 393b
ヒト大腸癌では,腫瘍内へのCD8陽性T細胞浸潤が予後良好因子となる事,MSI(microsatellite instability)陽性症例では抗PD-1抗体が劇的に奏功する事などが報告されており,一部の症例では,抗腫瘍免疫応答が認められることが示唆されている.しかし,大腸癌の大半を占めるMSI陰性症例では,抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬を含めた免疫療法に対して不応例が多く,大腸癌に特異的な免疫抑制メカニズムの解明と克服が重要である.本研究で,我々は,30個の細胞表面CD抗原の発現を,ヒト大腸癌細胞株で解析し,抗腫瘍細胞傷害性T細胞(CTL)に対して耐性となる分画の同定を試みた.その結果,大腸癌は同一細胞株内でも,10種類以上の表面抗原に関して,その発現強度が異なる亜集団を含むことが分かった.さらに,それらの表面抗原の陽性・陰性によって細胞亜集団を分離し,抗腫瘍CTLへの感受性の違いを評価したところ,CD44などの3つのCD抗原に関しては,陰性分画と,陽性分画で,抗腫瘍CTLに対する抵抗性が異なっていた.さらに,TCGA(The cancer genome atlas)のRNAシーケンスのデータベースを解析すると,MSI陽性のヒト大腸癌組織では,CD44発現とCD8発現に負の相関を認めた.以上の結果より,ヒト大腸癌で,CD44などのCD抗原で定義出来る亜集団は,抗腫瘍CTLに対して耐性分画をふくみ,免疫療法耐性の原因となっている可能性があること,これらCD抗原の発現は免疫療法の効果を予測するマーカーになる可能性があることが示唆された.