2017 年 40 巻 4 号 p. 258a
ヒトを含む動物の腸内には膨大な数の細菌が棲息しており,腸内細菌叢と総称される.特にヒト大腸に共生する細菌数は40兆個以上と,ヒトのからだを形成する体細胞数約30兆個よりも多い.さらに,その遺伝子は集団として約60万とヒトの約2万を悠に凌駕し,複雑な代謝系を構築して様々な代謝物を産生し,われわれ宿主の生理・病理に多大な影響を及ぼしている.近年のメタゲノム解析をはじめとする解析技術の進歩と共に,炎症性腸疾患などの消化器疾患に限らず,糖尿病や動脈硬化症などの代謝・循環器疾患,アレルギーや自己免疫疾患などの免疫疾患,さらには自閉症スペクトラムなどの脳神経疾患で腸内細菌叢の正常からの逸脱(dysbiosis)が見られること,さらに,dysbiosisは単に疾患の結果ではなく疾患の発症要因となり得ることや,dysbiosisの是正が疾患の治療・予防効果をもたらすことも明らかとなりつつある.演者らは宿主–腸内細菌相互作用を分子レベルで理解するために,網羅的遺伝子解析手法である(メタ)ゲノムに加え,網羅的遺伝子発現調節解析であるエピゲノム,網羅的遺伝子発現解析である(メタ)トランスクリプトーム,網羅的代謝物定量解析であるメタボロームといった,異なる階層の網羅的解析を組み合わせた「統合オミクス手法」を提唱してきた.