2017 年 40 巻 4 号 p. 258b
「免疫応答の異常」は炎症性腸疾患の主たる発症要因の1つであり,実際これまで免疫応答の是正を標的としたさまざまな治療の有効性が示されてきた.例えば抗TNF-α抗体に代表される生物学的製剤は免疫応答の是正を通じてこれまでにない高い治療効果を発揮している.従って今日の治療においては免疫応答の異常に治療介入するための複数の選択肢があり,かつ一定の有効性があるものの,これらの治療だけでは長期の寛解維持が困難な難治例が未だ存在する.このような背景の中で,炎症性腸疾患の治療目標として「粘膜治癒」という概念が広まり,定着している.「粘膜治癒」とは生体内外の調和を取り持つ腸粘膜を構造・機能両面から再生・回復させることを指し,これを達成することにより長期に渡る疾患予後の改善・寛解維持が得られるものと考えられている.従来治療では「粘膜治癒」が得られない患者に対し,さまざまな新しい治療法の開発が試みられているが,治療効果を有する細胞の移入・移植を用いた「再生医療」もその1つである.炎症性腸疾患の治療においては骨髄移植・間葉系幹細胞移植等が既に試みられているが,近年本邦研究者らにより確立された体外培養・移植技術を用いた「腸上皮幹細胞移植」も新たに試みられようとしている.本演題では我々が取り組んでいる「自己腸上皮幹細胞移植」を含む炎症性腸疾患に対する再生医療の現状について紹介したい.