日本臨床免疫学会会誌
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肛門周囲膿瘍をrecombinant granulocyte colony-stimulating factor (rG-CSF)の併用療法により治療しえた好中球減少症を伴ったcommon variable immunodeficiencyの1男児例
野間 剛檀谷 尚宏渋谷 温前田 和一
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1990 年 13 巻 1 号 p. 72-79

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抄録

症例は4歳8ヵ月男児.生後3ヵ月ころより咳漱,鼻汁が持続していたが, 6ヵ月時pneumocystis carinii肺炎に罹患し当科で加療された.肺炎は軽快したが, Bリンパ球の欠陥を伴うcommon variable immunodeficien-cy (IgG 58mg/dl, IgA 41mg/dl, IgM 109mg/dl)と診断され,免疫グロブリンの置換療法を受けていた.このころより好中球の比率は約5%と低下を示したが,感染を繰り返すことはなかった.今回(4歳)肛門周囲の膿瘍に気づき当科受診した.培養でstreptococcus agalactiaeとpeptostreptococcusが検出され,抗生剤とST合剤にて治療されたが,著しい改善傾向を認めなかった.
CRP 0.4mg/dl, ESR 26 (1°)と急性期反応は陽性を示し, WBC 7,200/μl(好中球5%)であった.免疫グロブリン値は,置換療法中でIgG 318mg/dl, IgA 30mg/dl, IgM 751mg/dlであった. T・B細胞比およびPHA芽球化反応は正常であったがCD 4/8比は0.76と低下していた.補体系は正常だった.好中球機能は走化能,貧食能,殺菌能とも正常範囲内であった.骨髄では好中球系細胞比率は18.2%と低下を示し,骨髄球でピーク(8.8%)を示した. M/E比は0.75. CFU-GMは488/105細胞と活性の増加を示したが, CFU-Eは2.7/5×104細胞と活性は低下していた.エピネフリン負荷テストは無反応であったが,プレドニン負荷テストでは末血の好中球数は約10倍に増加した.抗生剤とST合剤にて治療されたが,改善傾向を認めなかったのでrG-CSF 2μg/kgを1週間連続投与(静注)したところ,肛門九時にあった直径5~7mmの潰瘍性膿瘍は周囲の発赤ともども消失した.末血好中球数に大きな変化を認めなかったが後骨髄球の出現が認められた(1%).また骨髄のCFU-GM, CFU-Eには大きな変化は認めなかった(576/105, 3.6/5×104)が,骨髄好中球の比率は32.8%と増加し,骨髄球(10.2%)と粁状球(11.0%)で2峰性のピークを示した.以上から本症例の好中球減少は,骨髄での成熟過程の障害による可能性が示唆され, rG-CSFによってその障害が改善されると考えられた.

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