抄録
妊娠の維持機構を明らかとすべく,妊婦の免疫系による胎児抗原の認識ならびに免疫応答を最もよく反映すると考えられる子宮近傍リンパ節(regional lymph nodes draining the uterus: DLN)の免疫動態について検討を行った.まず,各種のmononuclear cell (MNC)を識別するモノクローナル抗体およびFACS analyzerを用い,細胞の膜表面抗原を解析し,リンパ節での免疫動態の特徴について検討した.その結果,妊婦のDLNでは, HLA-DRおよびCD11b陽性細胞の増加が認められた.さらに,免疫組織学的観察を加えたところ, HLA-DR陽性細胞は, DLNのB cell領域とともに, T cell領域にも多く認められ, T cellは活性化されているものと考えられ, DLNでの細胞免疫能が亢進しているものと推察された.そこで, DLNよりMNCを分離し, mitogenに対する反応性を測定したところ,末梢血MNCとの間には差は認められなかった.しかし, controlとして用いた子宮筋腫患者のDLNより分離したMNCの反応性より上昇していた.さらに瞬帯血のMNCをstimulatorとしmixed lymphocyte reaction系で検討してみたところ,末梢血と比較して反応性の充進が認められた.これらの結果は,母体の免疫系が胎児に反応していると理解された.次にこの反応が胎児を許容すべく作用するか,それとも傷害的に作用するかsuppressor活性およびcytolytic activityについて検討してみた.その結果, suppressor活性は認められなかったが, cytolytic activityが認められた.このことは, DLNのMNCが胎児に対して傷害的に作用している可能性を推察させた.