1995 年 18 巻 2 号 p. 241-246
62歳男性で四肢末端のしびれ感を主訴に来院した患者を経験した.胸部レ線検査の結果,肺野の腫瘍陰影と縦隔リンパ節の著しい腫大,および鎖骨上リンパ節の腫大を認め,同部位の組織検査から肺小細胞癌と診断した.知覚神経を主体とする末梢神経伝導速度の遅延が認められ,シスプラチンおよびエトポシドによる化学療法を施行し,原発性肺癌に対し縮小効果を得たが,末梢知覚神経障害はむしろ増悪傾向にあった.彼の血清中にはラット末梢神経上の29kDの蛋白と反応するIgM型抗体が認められたが,中枢神経組織と反応する抗体は認められなかった.また患者血清中の抗体は肺小細胞癌とも反応し,末梢神経知覚障害の発症に患者血清中の抗体が関与していることが示唆され,しかもこの抗体は従来から報告されている同じ腫瘍随伴末梢神経障害をきたす抗Hu抗体とは,認識する抗原の分子量や局在も異なることから新しい知見と考えられ,また腫瘍随伴症状の発症メカニズムの重要な機序の1つであると考えられた.