抄録
症例は, 66歳の非血友病男性.突然口腔内から頚部・前胸部を占有する巨大血腫とそれに伴う著明な呼吸困難が出現し,当科に入院した.血腫により気管は完全に圧排され,気管内挿管による気道確保を要した.活性化部分トロンボプラスチン時間の著明延長,凝固第VIII因子活性1%以下,第VIII因子インヒビター60 Bethesda unit/mlより,後天性第VIII因子欠乏症と診断した.第IX因子製剤,活性型第IX因子製剤によるバイパス療法,プレドニゾロン60mg/日の投与,血漿交換の併用療法により,血腫の拡大は阻止された.しかし,第VIII因子インヒビターの高値と第VIII因子活性の低下が持続したため,シクロスポリン150mg/日を追加併用した.その結果第35病日には,出血傾向の著明改善と第VIII因子インヒビターの低下を認めた.しかし,第VIII因子活性の低下は持続し,第38病日には再度出血と血腫の形成を認め,ステロイドパルス療法を施行した.それにより,血腫は消失し,第VIII因子活性の著明な改善を得た.以上,後天性第VIII因子欠乏症は,極めて稀な疾患であるが予後不良であり,初期段階での適切な診断・治療と,副腎皮質ステロイドの効果が不十分な症例におけるシクロスポリンやステロイドパルス療法の追加併用療法が重要である.