抄録
70歳の女性.平成11年10月より乾性咳漱を契機に近医にて胸部異常影を指摘され精査目的で当院に紹介入院となった.入院時には軽度の低酸素血症を示すも自覚的には症状なく,他覚的にも炎症所見などは認めなかった.入院後に施行した経気管支肺生検ではリンパ球の集簇を認めるも確定診断に至らず,胸腔鏡下肺生検を施行した.その結果胞隔の肥厚と異型性は強くはないものの核のくびれを有するリンパ球を主体とした細胞浸潤を認めた.さらにリンパ球浸潤の強い病変部ではリンパ濾胞の形成および細気管支粘膜内や血管壁への浸潤を認めた.以上よりリンパ増殖性疾患のなかでもlow grade malignancyの疾患としてlymphomatoid granulomatosis (LYG)が最も考えられた.さらにその組織を用いたnested PCR法によるDNA解析により免疫グロブリンのH鎖, IgJHの再構築を確認することができた.以上より本症例はKatzensteinらによりされているLYGはBcell lymphoma with T cell rich backgroundとの概念に一致するものと考えられた.さらに一般にLYGの約半数は悪性の経過をとることが報告されているが,本症例では未治療でβ2マイクログロブリン,可溶解性IL-2レセプターが,チミジンキナーゼなどが低下するとともに肺野陰影も改善している.このことは本症例の悪性度が低くかつ自然経過として軽快している可能性を示していると考えられ,その臨床経過としても極めてまれなLYGの症例と考えられ,貴重な症例と考えられる.