2022 年 15 巻 2 号 p. 2_65-2_73
本研究は,30代で大腸癌再発と診断された寡黙なAさんの事例をとおして,若年成人がん患者の再発診断から人生の締めくくりに向かう過程において,望む療養生活を自分で決めるための看護師の意思決定支援を明らかにすることを目的とした,単一事例研究である.
看護師は,再発診断期から身体機能が低下していく過程において,Aさんはどうしたいのかを尋ねて,表現できる支援を重ねた.そして身体状態と生活状況を見極めながら,「決めるのはあなた自身」と伝えて決断を促し,Aさんの決めたことを保証する支援を行った.その結果,Aさんは「もう死ぬのかな」と死を意識しながらも姉の家の近くの病院への転院を自分で決め,亡くなる2週間前に転院できた.
人生における重要な意思決定の経験の少ない若年成人がん患者に対して,再発診断時から考えや思いを十分に語ることのできる場と時間を提供し,意思を言語化するための継続した支援は,人生の締めくくりに向かう過程において,自分で決める力を育む支援であったことが示唆された.