日本臨床免疫学会総会抄録集
Online ISSN : 1880-3296
ISSN-L : 1880-3296
第35回日本臨床免疫学会総会抄録集
セッションID: Plenary3
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Plenary Lecture
多発性硬化症の臨床免疫学
*山村 隆
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抄録

多発性硬化症(MS)は視神経、大脳、脊髄などに炎症病変を多発する自己免疫疾患であるが、先進諸国での増加傾向が明瞭なことから、生活習慣や環境要因との関係が見直されている。MS病態の理解や治療法開発は、動物モデルEAEを用いた基礎研究によって急速に進んだ。しかし、免疫学のパラダイムシフト(Th1/Th2ドグマの崩壊)に伴い、過去の定説の見直しが必要になっている。一方、より臨床的な問題としては、MSにおける治療薬反応性の多様性や、再発・寛解を規定する要因などが未解明である。本講演ではEAEとヒトMSの臨床材料の解析結果を対比しつつ問題点を整理し、マウスとヒトの自己免疫病態の相違点、ヒト免疫研究の重要性などを論じる。
 特に重点的に取り上げるのは、1)MS/EAEを惹起する病原性Th17細胞に関連する問題(Th17の性状、Th17の関与する病態、Th17を標的とする治療、Th17病態の増悪因子など)、2)MS/EAEを抑制する制御性細胞をめぐる問題(NK細胞の変調による再発はあるか?MAIT細胞の変調はMSの増加を説明するか?)、3)オーファン核内受容体NR4A2の MS病態における役割、などである。
 NR4A2は脳内黒質ニューロンの発達に関与する遺伝子で、家族性パーキンソン病の原因遺伝子として知られる。我々はMS患者T細胞でNR4A2が著明に発現亢進することを報告したが(Satoh et al. Neurobiol Dis 18:537-550, 2005)、EAEの脳内浸潤T細胞でも発現亢進を確認し興味を引かれた。最近になって、NR4A2がIL-17やIFN-γなど炎症性サイトカインの発現を誘導する転写因子であることが判明し、NR4A2を標的とする治療法開発が有望であることが明らかになった(論文準備中)。ヒト免疫疾患の研究において、血液リンパ球が治療法開発につながる情報を与えることの一例である。

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© 2007 日本臨床免疫学会
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