主催: 大阪大学保健センター、大学院医学系研究科身体防御健康医学
ケモカインと幹細胞のホーミング・動員、炎症性サイトカイン、単球由来細胞の多様な機能、幹細胞の同種移植に伴う免疫学的拒絶反応の制御、抗体医薬を含めた生物製剤による再生誘導など炎症と再生の接点が明瞭となってきている。私達も、特に脊髄損傷の急性期および亜急性期における炎症制御が再生戦略において重要な役割を果たすことを示してきた。脊髄損傷後には脊髄血液関門の破綻により血液中より大量のマクロファージの流入がみられ、これが脊髄損傷後の治癒過程を阻害する一因となっている可能性が指摘されている。我々は、以前脊髄損傷に対する抗IL-6受容体抗体(MR16-1)の有効性を報告してきたが、1)炎症細胞浸潤の経時的な変化、2)ケモカインの発現、3)主要な炎症細胞である単球系の細胞の分画、4)血液由来のマクロファージの特性、5)二次損傷と組織修復過程に与える影響の解析の結果から抗IL-6受容体抗体の発揮する治療効果にこのような炎症細胞浸潤の制御が寄与していることを明らかとした。この炎症反応によって脊髄損傷後亜急性期(1~2週)において誘導されると考えられる反応性アストロサイト(reactive astrocytes)と呼ばれる細胞は、グリア瘢痕形成やコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)のような神経軸索伸長阻害因子を発現することから傷害された神経系の修復を阻害する「悪玉細胞」であると専ら考えられてきたが、反応性アストロサイトは損傷周辺部から中心部へと移動し、障害部位を取り囲み、炎症細胞を脊髄の他の部分から隔絶することを示し、「反応性アストロサイト・善玉説」を提唱するに至った(Okada et al., Nature Medicine, 2006)。またこの善玉としての反応において、STAT3が中心的な役割を果たすことが明らかになった。