抄録
リン脂質メディエーターであるスフィンゴシン 1-リン酸 (S1P) と,その受容体の1サブタイプであるS1P1受容体は,リンパ球の体内循環,特にリンパ球がリンパ節などの二次リンパ組織から体内循環系へ移出される過程で必須の役割を果たしている.世界初のS1P 受容体調節薬であるFTY720 (fingolimod) は,再発寛解型の多発性硬化症 (MS) 患者を対象とした第三相臨床試験において,MSの標準的な治療薬であるインターフェロン-βを上回る再発抑制効果が明らかにされ,経口投与が可能な新規MS治療薬として,米国,ロシア,欧州などで承認された.FTY720はスフィンゴシンキナーゼによってリン酸化体に変換され,S1P1受容体に作用し,受容体の内在化と分解を誘導することで機能的アンタゴニストとして作用する.この作用に基づいて,FTY720はTh17細胞などの自己反応性リンパ球のリンパ節からの移出を抑制し,炎症部位への浸潤を阻止することによって,MSやその動物モデルである自己免疫性脳脊髄炎において治療効果を発揮すると考えられる.本シンポジウムでは,自己免疫疾患治療の新しい標的分子としてのS1P1受容体について,S1P受容体調節薬,FTY720の作用メカニズムとMSにおける治療効果を基に概説する.