臨床神経生理学
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解説
上肢神経伝導検査で診断する筋萎縮性側索硬化症 : split hand
桑原 聡
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2015 年 43 巻 6 号 p. 504-508

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抄録

3カ月の経過で左手内筋の筋力低下・萎縮を呈した69歳女性例を提示した。臨床的に母指球筋 (APB) と第一背側骨間筋 (FDI) が高度に萎縮し, 小指球筋 (ADM) が保たれていたことから筋萎縮性側索硬化症 (ALS) を疑い, 系統的な針筋電図で広汎な脱神経所見を認めた。ALSではsplit handと呼ばれる特異的な小手筋萎縮のパターンが認められ, 注目されている。APBとFDIが優位に萎縮し, ADMが保たれるために手の外側筋群が萎縮し内側が保たれて萎縮の有無を分割するような線が引ける (split) ことから命名された。いずれの筋肉も同じ髄節 (C8–T1) 支配であり, この解離性筋萎縮は解剖学的には説明できず, ALSに特異的とされている。Split handは神経伝導検査において上記3筋の複合筋活動電位振幅で定量できる。Split handのメカニズムとして皮質運動ニューロンレベルで母指球側筋が優位に障害される中枢説と, 脊髄運動ニューロンにおいて母指球筋支配軸索の興奮性が生理的に高いことによる末梢説が提唱されている。母指球筋は小手球筋と比べてヒトの日常動作において使用頻度が高いために, 代謝要求が高く, 酸化ストレスに暴露されやすい。Split handはALSにほぼ特異的に認められ, 臨床診断における意義は非常に高い。

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© 2015 一般社団法人 日本臨床神経生理学会
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