日本臨床プロテオーム研究会要旨集
第1回日本臨床プロテオーム研究会
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プロローグ
基礎プロテオミクスから臨床プロテオミクスへ
*西村 俊秀
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p. 6-

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抄録
ゲノム解読プロジェクトは,予想外にも一応の早期終結をみたが,ポストゲノムの中心となる蛋白質とその機能の解明はより困難なテーマである.これまで、ある時点で発現している蛋白質全体のスナップショットをとることは不可能と考えられていた.このスナップショットは,“Proteins expressed in compliment of genome”という意味の造語としてPROTEOME(プロテオーム)と名づけられたのは1995年である.約30,000ヒト遺伝子から発現される蛋白質の種類は200,000以上ともいわれる.蛋白質の種類と発現量はヒトの状態により大きく変化する.当然,病気か健康かにより異なる.蛋白質は細胞内分子機械の主要な部品として,複合体を形成したり,他の複合体へメッセージを送ったり,細胞分裂を制御したり,組織の成長をコントロールしたり,酸素の運搬や感染を防御したりして,体の主な機能を担っている.人が病気になったとき,遺伝子にもどってこれらをすぐに変えることは困難である.もちろん,遺伝子治療は幾つかの疾患について新たな光明を投げているが,心臓疾患,精神疾患,感染症,また多くの生活習慣病といわれるような多因子性疾患についてはほぼ無力と思える.遺伝子をどうにかするよりも,疾患メカニズムを担う機械としての蛋白質を制御するほうが論理的である.従って,医療において蛋白質ほど重要な分子は他にはない. 今日のプロテオーム解析技術の進歩は著しい.ヒト疾患のメカニズム解明や治療に関する臨床研究がいよいよ本格的に展開されようとしている時期に本研究会が立ち上げられた意義は大きいと考える.臨床プロテオミクスの進展により,分子レベルでの証拠に基づいた個別医療・早期診断などが実現され,今後の医学への貢献を確信する.プロテオミクスの始まりから臨床プロテオミクスへの道筋を述べ,研究会での諸先生による講演のプロローグとしたい.
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