抄録
バイオマーカーについて、臨床検査を行っているわれわれの関わりとして、大きく2つのことが考えられる。
まず、バイオマーカーによる臨床検査を行う立場である。臨床検査として実施するためには、費用、エビデンス、市場性について考えていかなければならない。ある疾患のバイオマーカーについて技術を導入して検査を行う場合、ライセンス契約だけでなくバイオマーカー測定に必要な機器を揃えるための投資が必要である。検査を実施するにあたり、健康診断などと、医科診療報酬に収載されるのとでは、有用性に対しての捉え方、価格設定の考え方、市場の規模に大きな差がある。健康診断などでは、利用者、医師に選んでいただけるだけの、少数例であっても高いレベルのエビデンスが求められる。一方、医科診療報酬に収載されるまでには、エビデンスを揃え、審査を通過するまでに多大な時間と費用を要する。また、バイオマーカーを安価に市場に提供するために、ELISAなどの従来の測定技術に置き換えることが考えられるが、マルチマーカーである場合やバイオマーカーがある蛋白の修飾の有無のような場合、測定系開発には高いハードルが想定される。
つぎに、バイオマーカー探索の立場である。われわれ自身では探査に用いる臨床サンプルを入手できないため、病院などの医療施設との共同開発ということになる。しかし、サンプルが病院内でいつも同じように(複数施設であればなおさら)コントロールされた状態で採取保存されているか。必要な臨床情報を的確に必要十分なだけ開示していただけるかなど、われわれの手元に届くまでに高いハードルがある。
さらに、共通する問題点として、インフォームドコンセント、倫理審査、治験手続など、医療環境が変化したことにより、時間ならびに費用がかさむようになり、バイオマーカー探索や臨床検査実用化のためには、越えなければならない課題が多い。