抄録
目的:現在、日本において糖尿病網膜症は成人の中途失明原因の第一位となっているが、その発症や進行のメカニズムに関してはいまだ解明されていない点も多い。今回我々は、プロテオーム解析の技術を用い糖尿病網膜症の病態解明を行った。
方法:まず培養ヒト網膜色素上皮細胞のARPE-19から抽出した蛋白質をサンプルとして2次元電気泳動を行い、高グルコース刺激により発現の変化を認める蛋白質を、MALDI-TOF MSを用いて同定した。さらに糖尿病網膜症患者から採取した硝子体をサンプルとして2次元電気泳動を行い、蛋白質同定を行った。
結果:培養細胞において、高グルコース群で発現が増加したタンパク質としてcathepsin B・glutathione peroxidase・heat shock protein 27が、発現が低下したタンパク質としてprotein disulfide isomerase・ribosomal protein P0が同定された。またCu/Zn superoxide dismutase (Cu/Zn-SOD)において等電点の変化を認めた。高グルコース群のCu/Zn-SODはglycationを受けたために等電点が変化したと考えられた。
また糖尿病網膜症患者の硝子体では、正常硝子体に比べ有意に増加していた蛋白質として、血清蛋白質の他にEnolase、Catalaseが同定された。
結論:硝子体、培養網膜色素細胞を用いたプロテオーム解析の結果、糖尿病網膜症において、酸化ストレスに関与する蛋白質の発現が変動している可能性が示唆された。