抄録
目的:アルツハイマー病(AD)はアミロイドβ(Aβ)の蓄積が原因であると考えられている。Aβワクチン療法はヒトの剖検脳所見でAβ沈着が抑制されていた現象が認められた。これはAβが免疫作用で排出・分解されている事を示している。脈絡叢は脳脊髄液産生を担っていると同時に、脈絡叢上皮細胞は血液脳脊髄液関門の実体である。脈絡叢にAβが存在することも免疫染色法により示され、AD患者脈絡叢では形態異常が報告されている。脳脊髄液中Aβ42の濃度がADで減少する知見は、Aβの排出機構と脈絡叢との関係を示唆し、脈絡叢タンパク質が新たな創薬ターゲットとなる可能性がある。
方法:Aβ排出での脈絡叢システムに注目し脈絡叢とADの関係をタンパク質レベルで解明するため、複数例のAD患者と性・年齢を一致させたコントロール(CN)との差異解析を行った。神経病理学的にADと診断された症例及びNCの剖検脳脈絡叢からタンパク質を抽出し、二次元電気泳動ディファレンシャル解析(2D-DIGE)を行った。2D-DIGEには、タンパク質を蛍光色素CyDyesで多重標識するEttanDIGE法を用いた。
症例は全て書面にて遺伝子・蛋白解析等の研究に凍結脳を用いる事が明記された承諾書を遺族より得ており、福祉村病院倫理委員会の承認を得ている。
結果:解析ソフトによる統計解析の結果、AD群とNC群間で蛋白質発現量の変化が認められる複数のスポットを検出した。
考察:AD脈絡叢で正常群と比べて発現蛋白の違いを認めた。今後、髄液成分・血液成分の解析とその混入の可能性を否定できれば脈絡叢が病態に関与している可能性が示唆される。これらの蛋白質について、ペプチドマスフィンガープリント法を用いて同定し、ADとの関連およびAβ排出機構における脈絡叢システムの役割を検討する予定である。