抄録
現代の育児における音楽の役割に注目し、音楽の有無による母親のあやし行動の変化を調べた。育児の中で音楽が使われるのは、乳児のぐずりをあやしたり遊んだりする時の他、養育者が十分に乳児の相手をすることができない状況も多いという実態調査の結果を受け、母親が児を抱かず、児を寝かせた状態でのあやし行動について検討した。生後2~5ヶ月齢児の母親27名を対象に、音楽が無い条件と、歌声のない音楽が提示される条件における母親の対乳児あやし行動を観察し、生起するあやし行動の内容と生起傾向、リズミカルな反復動作を含むあやし行動の生起傾向の音楽提示による変化を調べた。その結果、母親のあやし行動として、乳児への接触、発声、体を揺らして見せる行動の3つが主に生起した。音楽の提示により、あやし行動全体の生起傾向に変化はみられなかったが、非リズミカルなあやし行動が減少し、リズミカルなあやし行動の割合が増加する傾向がみられた。乳児の抱きを制限した状況においても、触覚、聴覚、視覚など多様な感覚のリズミカルな刺激が音楽とともに乳児に与えられ、乳児を効率よく落ち着かせ、相互作用に引き込む機能があると考えられた。