映画研究
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隠喩としての刺繍
アリ・アスターの『ミッドサマー』における女性性と偽装ケア
石田 由希
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キーワード: 刺繍, 女性性, 母性, 植物, ケア, 演技性
ジャーナル オープンアクセス

2022 年 17 巻 p. 46-64

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抄録

アリ・アスター監督の長編フォーク・ホラー映画『ミッドサマー』では、人身御供を行うスウェーデン人の集団が、刺繍入りの華やかな民族衣装を着る。刺繍が加害性と隣り合わせる光景は、アスターが本作以前に監督した短編映画『ミュンヒハウゼン』や長編ホラー映画『ヘレディタリー/継承』にも見受けられる。本論の目的は、上記ふたつの先行作品で刺繍が権威的な女性性の隠喩であり、こうした含みを持つ手芸モチーフが『ミッドサマー』に引き継がれている点を明らかにすることだ。まず、 『ミュンヒハウゼン』と『ヘレディタリー』では、草花と隣接する植物模様の刺繍が登場し、その刺繍の作者である女性や刺繍と象徴的に結びつく高齢の女性が、他者を支配するためにケアを偽装する。『ミッドサマー』で刺繍入り民族衣装をまとう女性たちも、ケアラーを演じつつ他者を手中に収めるが、その中心にいる家母長的な人物の造形は、前二作の保守的な「母親」像を骨子とする。

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© 2022 日本映画学会
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