映画研究
Online ISSN : 2423-9399
Print ISSN : 1881-5324
ISSN-L : 1881-5324
カンフーマスターの老い
『ライジング・ドラゴン』におけるスター・イメージの再創造
雑賀 広海
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2023 年 18 巻 p. 42-64

詳細
抄録
黄金期が過ぎた香港映画では、監督や俳優の高齢化が産業の衰退との関連で問題視されてきた。しかし、香港人アイデンティティが1970年代ごろから定着しはじめたものであれば、老いた香港人は2000年代以降に描かれはじめた新しいイメージである。とりわけ身体を酷使するカンフー映画のアクション俳優にとって、老いはスター・イメージの維持において否定的に作用しやすい。本論文は黄金期香港映画を代表するアクション・スターのジャッキー・チェンをとりあげる。1990年代までの彼は若く健康で強靭な身体を誇示していたが、2000年代以降は老いの演技を実践しながらCGIをとりいれるようになる。これはアクション俳優としての退化ではなく、彼の演技が新たなモードにはいったことを示している。それは、1990 年代までの虚構に打ち勝つ実体的な身体イメージからデジタル映像をとりこみ生成変化する身体イメージへの移行であり、老いた彼の身体は柔軟なマスキュリニティを手にいれる。
著者関連情報
© 2023 日本映画学会
前の記事
feedback
Top