抄録
凍結した架橋デキストランゲルを昇温すると,架橋密度が適当な場合,氷晶形成による結晶化現象が観測される場合がある。この昇温結晶化のメカニズムを解明する目的で,DSC,ラマン散乱,X線回折-DSC同時測定を行った。その結果,凍結挙動だけでなく,生成する氷晶のサイズも架橋密度に依存することが明らかになった。すなわち,二次元X線回折-DSC同時測定の結果から,昇温結晶化の観察されるゲルではサイズの小さな氷晶の形成されやすいことが示唆された。また,ラマン散乱実験から,このゲルにおいてガラス状態の水の存在が示唆された。したがって,高分子網目構造の存在および凍結時における網目構造の変化により,高分子ゲル中において氷晶形成は妨げられることが明らかになった。これまでに得られた知見より,昇温結晶化のメカニズムについて議論した。