2020 年 24 巻 1 号 p. 27-33
術後神経・認知機能異常は,高齢心臓血管手術患者に頻度が多く,長期予後に影響する重大な術後合併症である。発症様式により,術後せん妄と術後認知機能障害とに分類される。これらに共通する病態機序として脳内神経炎症の役割が注目されている。特に,加齢に伴う脳内常在性ミクログリアの炎症反応性変化は,手術侵襲に対する高齢脳の認知脆弱性に関与する。脳内神経炎症仮説に基づく術後神経・認知機能異常の予防・治療戦略では,急性期に生じる術後せん妄に対する対策が最も重要と考えられる。本稿では,脳内神経炎症仮説を踏まえつつ,術後神経・認知機能異常の定義,病態機序,予防,治療戦略について概説したい。