抄録
眼圧測定は、眼球の生理学的状態、疾病あるいは毒性変化の評価のために広く用いられているが、眼圧はヒト、アカゲザルおよびイヌを含む多くの種において様々な因子により影響を受けることが報告されている1-10)。本実験では、カニクイザルにおける眼圧に対する麻酔、測定体位、日内の測定時間帯および散瞳の影響について検討を行った。
麻酔による変化として、塩酸ケタミンを10 mg/kgの用量で筋肉内投与した結果、眼圧は投与後5分に最も高く、その後低下する傾向が認められた。眼圧は塩酸ケタミンの投与後15分以降では測定時とその5分後の値の変動が3 mmHg以内で安定し、この状態は測定終了時の投与後30分まで持続した。測定体位については、腹臥位で測定した眼圧は座位での測定値に比較して有意に高い値(p<0.05)を示した。測定時間帯の検討として午前と午後に眼圧を測定した結果、眼圧の値は午後に比較して午前においてより高値の傾向が認められた。散瞳による変化について、同一動物の左眼にトロピカミドおよびフェニレフリン塩酸塩を点眼投与し散瞳させ、右眼には生理食塩液を点眼しそれぞれの眼圧を比較した結果、両者の眼圧には有意差は認められなかった。
以上より、カニクイザルにおける眼圧の測定値は測定体位により明らかに影響され、日内の測定時間帯によってある程度の影響が認められる一方、散瞳による影響はみられないことが確認された。また、安定した信頼性の高い測定結果を得るためには、眼圧測定は塩酸ケタミン投与後15分から30分までに実施することが望ましいと考えた。