比較眼科研究
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32 巻
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特別講演
総説
  • 小野寺 博志, 佐々木 正治, 大竹 誠司, 友廣 雅之, 渋谷 一元, 野村 護
    原稿種別: 総説
    2013 年 32 巻 p. 3-13
    発行日: 2013/12/27
    公開日: 2015/03/28
    ジャーナル フリー
    ヒトは外部情報の約80%を視覚から得ているといわれ、視覚を喪失した場合、QOLは大きく低下する。そのため視覚毒性のリスク評価の重要性は極めて高い。しかし、医薬品を申請するための安全性を担保する非臨床毒性試験ではICH S4ガイドラインにおける眼検査の記載は限定的であり、当該眼検査だけでは、ヒトに外挿できる眼毒性リスク評価は十分とは言えない。
    眼は複雑に進化した特殊な組織の集合体で、各組織のバランスによって恒常性を保ちながら機能を維持している。一部の機能の恒常性が破綻した場合、全体の機能に影響を及ぼすことになる。薬物の影響を評価する場合、眼の解剖学的構造や各器官の機能を理解することは得られる変化のメカニズムを解析する助けとなる。
    非臨床毒性試験の眼検査においては,各種検査の原理と特徴を充分に理解しておかなければ、認められた変化の評価を誤ることもある。薬物投与前後の検査所見の比較はもとより、用いた動物の種差、系統差、週齢差による特性、発症部位を把握しその意義を考慮することが重要である。また、実験動物には眼の自然発生病変が多数認められることが知られ、薬物投与に起因する毒性所見との鑑別には検査技術の習得と背景データの集積が極めて重要である。動物の眼検査から得られた所見を、ヒトに外挿するためには、臨床的重要性に応じた評価が必要である。
    眼球の病理組織標本作製には、慎重な臓器採取及び適切な固定条件の選択が重要で、病変部位を正確に組織標本に反映させるためには眼検査担当者、剖検者及び組織標本作製者が事前に協議し情報を共有しなければならない。病理組織学的変化のみで、眼毒性を診断することには限界があり、他の検査データと関連づけて考慮することが重要である。
    以上、眼毒性のリスク評価にあたっては、非臨床毒性試験におけるすべての検査データを総合的に判断することが必要で、そのためには、眼検査担当者はもちろん、試験責任者(トキシコロジスト)、一般状態観察者、組織標本作製者、病理検査者が協力して適切な評価を行わなければならない。
    Editor's pick

原著
  • 坂本 雄二, 奥村 直毅, 小泉 範子, 沼田 諒平, 北野 絢嗣, 山本 真弓, 駒田 孝文, 星 信彦
    原稿種別: 原著
    2013 年 32 巻 p. 15-21
    発行日: 2013/12/27
    公開日: 2015/03/28
    ジャーナル フリー
    我々は新たな角膜内皮研究における点眼療法等の評価に適した実験モデルとして、フェレットの有用性について検討を行っている。これまで、角膜内皮の基礎研究にはウサギが広く用いられてきた。しかし、ウサギ角膜内皮細胞は、障害を受けても自己再生するため、長期の評価には適していない。我々のグループの研究者は、霊長類の角膜内皮細胞が、生体内では極めて増殖能が低いことから、霊長類を用いて角膜内皮機能不全モデルを開発した。しかし、霊長類はその取り扱いに高い技術力を要し、倫理面においても厳格な運用を必要とする。このような状況を踏まえ、我々は、フェレットがウサギと霊長類の中間をなす角膜内皮機能不全モデルの候補となる可能性があると考えた。
    本研究では、液体窒素で冷却したステンレスプローブを用いた経角膜冷凍凝固法により、フェレットの部分的角膜内皮障害モデルを作製し、Rhoキナーゼの特異的阻害剤であるY-27632がフェレットの角膜内皮創傷治癒に与える影響を評価した。Y-27632を点眼投与することにより、角膜内皮障害によって生じる角膜浮腫や混濁が軽減され角膜厚は有意に減少し、冷凍凝固処置48時間後に摘出し測定した角膜内皮の創傷面積は、Y-27632群ではコントロール群に対して16.0±3.0%と有意に減少した。また、Y-27632点眼投与により創傷治癒後の角膜内皮密度はコントロール群が1149.0±597.9個/mm2であったのに対し、Y-27632群では1836.3±706.1個/mm2と有意(p<0.05)に高く、一層の多角形の細胞形態に再生された。本研究より、フェレットを用いた角膜内皮障害の新しい動物モデルが確立され、本モデルは角膜内皮研究における点眼治療薬開発に有用であることが示唆された。
短報
  • 岩田 憲明, 櫻井 健, 木下 順三, 肝付 智文, 安田 充也
    原稿種別: 短報
    2013 年 32 巻 p. 23-28
    発行日: 2013/12/27
    公開日: 2015/03/28
    ジャーナル フリー
    眼圧測定は、眼球の生理学的状態、疾病あるいは毒性変化の評価のために広く用いられているが、眼圧はヒト、アカゲザルおよびイヌを含む多くの種において様々な因子により影響を受けることが報告されている1-10)。本実験では、カニクイザルにおける眼圧に対する麻酔、測定体位、日内の測定時間帯および散瞳の影響について検討を行った。
    麻酔による変化として、塩酸ケタミンを10 mg/kgの用量で筋肉内投与した結果、眼圧は投与後5分に最も高く、その後低下する傾向が認められた。眼圧は塩酸ケタミンの投与後15分以降では測定時とその5分後の値の変動が3 mmHg以内で安定し、この状態は測定終了時の投与後30分まで持続した。測定体位については、腹臥位で測定した眼圧は座位での測定値に比較して有意に高い値(p<0.05)を示した。測定時間帯の検討として午前と午後に眼圧を測定した結果、眼圧の値は午後に比較して午前においてより高値の傾向が認められた。散瞳による変化について、同一動物の左眼にトロピカミドおよびフェニレフリン塩酸塩を点眼投与し散瞳させ、右眼には生理食塩液を点眼しそれぞれの眼圧を比較した結果、両者の眼圧には有意差は認められなかった。
    以上より、カニクイザルにおける眼圧の測定値は測定体位により明らかに影響され、日内の測定時間帯によってある程度の影響が認められる一方、散瞳による影響はみられないことが確認された。また、安定した信頼性の高い測定結果を得るためには、眼圧測定は塩酸ケタミン投与後15分から30分までに実施することが望ましいと考えた。
短報
  • 田中 守, 中家 美千代, 佐藤 伸一
    原稿種別: 短報
    2013 年 32 巻 p. 29-33
    発行日: 2013/12/27
    公開日: 2015/03/28
    ジャーナル フリー
    近年、緑内障治療薬の開発の高まりにより、緑内障モデル動物が注目されている。カニクイザルは眼球構造がヒトに近く、これまでのところレーザー誘発高眼圧モデルとして多く用いられてきた。緑内障の判定は眼圧を測定することで行われてきたが、測定値にバラツキが大きいことが問題であった。さらに、最近の研究では緑内障であっても必ずしも高眼圧を呈さないことがわかっており、眼圧以外の指標による緑内障の判定法が求められていた。ヒトにおいては日本緑内障学会の「緑内障性視神経乳頭・網膜神経線維層変化判定ガイドライン(以下、ガイドライン)」1)が発行されており、眼圧に依存しない評価が利用されている。また、カニクイザルにおける無麻酔下での眼圧測定には事前に測定環境への長い馴化期間を要する2)ことから、より簡便で測定環境に影響されにくく、眼圧に替わる数的な指標による緑内障の判定は有用であると考えられる。このような背景のもと、ガイドラインのカニクイザルへの応用の可能性を検討する第一ステップとして、無処置カニクイザル97匹(♂:48匹、♀:49匹)の両眼194眼のデジタル眼底写真を撮影し、緑内障性変化有無の判定に有効とされる、質的判定及び視神経乳頭陥凹の最大垂直径と最大垂直視神経乳頭径の比(以下、垂直C/D比)3)の計測を行なった。なお、本実験の目的は眼底写真による垂直C/D比を用いた緑内障の判定であったことから、スリットランプのスリット光による視神経乳頭部周囲の凹凸については観察しなかった。その結果、カニクイザルの視神経乳頭は垂直方向に縦長の楕円形であった。視神経乳頭陥凹は視神経乳頭のほぼ中心に位置し、垂直方向にやや縦長の楕円形であった。リムの形状は乳頭の上方及び下方がやや厚いが、全周にわたってほぼ均等であった。垂直C/D比の平均は、雄の左眼で0.56±0.08、右眼で0.55±0.08、雌の左眼で0.59±0.08、右眼で0.60±0.08であった。両眼の垂直C/D比の差は、いずれの動物においても0.00~0.07であり、平均は0.02であった。これらの結果から、緑内障と判定された動物は見られなかった。
    以上のように垂直C/D比計測の結果、カニクイザルにおける緑内障性変化の判定に本ガイドラインを応用することは可能であると考えられた。
短報
  • 厚見 育代, 倉田 昌明, 榊 秀之
    原稿種別: 短報
    2013 年 32 巻 p. 35-41
    発行日: 2013/12/27
    公開日: 2015/03/28
    ジャーナル フリー
    眼球に関する比較解剖学的研究は古くから広く実施されている。実験動物の眼球に関する知見は、眼科用医薬製品開発の非臨床試験評価において必要不可欠である。しかしながら、これらの知見は散在しており、点眼や硝子体内投与といった眼局所投与の研究において汎用される動物種(ウサギ、ビーグル犬、カニクイザル)に関しても、比較実験成績はないか、あるいは容易に入手できない状況にある。そこで我々は、ウサギ、イヌ及びサルを対象として、眼球、水晶体及び硝子体の解剖学的特徴を比較検討することを目的として本研究を行った。
    今回の検討において、眼球の大きさ(眼軸長、重量及び容積)、水晶体の大きさ(厚み、重量及び容積)及び硝子体の大きさ(重量及び容積)を各動物種について計測した。3種間の比較結果では、眼球の大きさはイヌが最も大きく、サル、ウサギの順であった。眼球の大きさと体重の間に正の相関があった。水晶体の大きさについては、イヌが最も大きく、ウサギ、サルの順であり、眼球の大きさや体重とは相関しない結果であった。硝子体の大きさは眼球の大きさと同じ順であったが、その眼球に対する割合はサルが最も大きかった。
    以上、眼局所投与の研究に汎用されるウサギ、イヌ及びサルの眼球、水晶体及び硝子体の大きさを詳細に比較検討した。今回得られた知見は、非臨床試験の評価やヒトへの外挿性において重要かつ有益な情報に成り得るものと考えられる。
症例報告
  • 福島 潮, 福島 美鈴, 金澤 崇史, 西塚 健太, 波平 真治, 各務 佐紀, 村松 勇一郎
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 32 巻 p. 43-47
    発行日: 2013/12/27
    公開日: 2015/03/28
    ジャーナル フリー
    白内障を発症した犬の5症例において眼の超音波検査により水晶体の破嚢と水晶体内容物の硝子体腔への流出所見を認めた。水晶体内容物の流出から生じたぶどう膜炎に対して全症例でプレドニゾロン0.5mg/kg、1日2回の投薬をおこなった結果、ぶどう膜炎は改善したが、治療開始から3ヵ月間以内に5頭中3頭に続発性網膜剥離が発症した。このことから水晶体破嚢に起因するぶどう膜炎症例に対して投薬治療のみを行った場合には、続発性網膜剥離を発症する可能性が高いものと考えられた。
症例報告
  • 小川 竜也, 満元 達也, 小澤 直幸, 小松 真彦, 八幡 めぐみ, 枝元 洋, 西村 信雄, 岡崎 修三
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 32 巻 p. 49-54
    発行日: 2013/12/27
    公開日: 2015/03/28
    ジャーナル フリー
    ラットにおける眼球の腫瘍として、角膜に発生する類上皮腫、角膜・強膜あるいは眼瞼に発生する扁平上皮由来の腫瘍などが知られているが、眼球内組織に由来する腫瘍の発生は希であり、黒色腫も極めて希な腫瘍である。今回、SDラットの眼球に自然発生性の悪性黒色腫がみられたので報告する。本症例では、88週齢の時点で右眼球の虹彩に腫瘤が肉眼的に発見された。以降、腫瘤塊の大型化とともに、眼球の突出・角膜全体の痂皮形成などの経過をたどり、計画剖検の1週前(109週齡)には角膜の脱落により腫瘤塊が露出した。ヘマトキシリン・エオジン染色標本では、眼球全体が腫瘍細胞で満たされ、紡錘形から類円形の核と好酸性の細胞質を有する腫瘍細胞が渦巻き状に配列していた。異型性の強い腫瘍細胞や有糸分裂像も散見された。腫瘍細胞内には時折褐色の顆粒が認められ、フォンタナ・マッソン染色でメラニン色素が確認されたことから、melanotic melanoma(恐らく虹彩または毛様体原発)と診断した。なお、他臓器への遠隔転移は認められなかった。
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