日本歯科衛生学会雑誌
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原著
地域在住女性高齢者における「口腔機能向上セルフトレーニングプログラム」の有効性の検討
浅枝 麻夢可破魔 幸枝原 久美子
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2023 年 18 巻 1 号 p. 46-54

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Abstract

【目的】オーラルフレイル予防を目的とした口腔機能向上プログラムに関する報告は,数多く見られる。これらは主に,指導型の健康教育が行われており,参加者が主体のプログラムに関する報告は少ない。本研究では,参加者交流型の口腔機能訓練は,トレーニングの継続および口腔機能向上に有効であるという仮説を基に,一般社団法人グッドネイバーズカンパニーが開発した,スポーツ感覚で楽しめる参加者交流型の「くちビルディング選手権トレーニングプログラム(以下,KTP)」に着目し,その有効性を検証した。

【対象および方法】対象は,地域に在住する65歳以上の女性高齢者である。対象者は初回に,「くちビルディング選手権」への参加,口腔機能の測定・評価,質問紙調査を行い,その後4週間,「くちビル自主トレーニング」を実施し,初回と4週間後の各項目について比較した。

【結果および考察】全プログラムに参加できた者31名(平均年齢70.9±4.0歳)を解析対象とした。最大舌圧,開口力,努力性肺活量,最大呼気流量について,4週間後では有意な差が認められ,トレーニングの実施率は95.2%であった。感想の内容から単語頻出度の解析を行った結果,名詞「意識」が1位だった。

【結論】地域在住女性高齢者に対して実施したKTPは,トレーニングの継続および口腔機能向上に効果があり,オーラルフレイル予防のプログラムとして有効である可能性がうかがえた。

Translated Abstract

There have been many reports about oral function improvement programs aimed at preventing oral frailty implemented in fields such as nursing care prevention classrooms. Notably, it was found that the one-way instructional health education from the profession to the participants occurred more frequently.

This study verified the effectiveness of the Kuchi Building Championship Training Program (KTP) developed by the Good Neighbors Company, based on the hypothesis that participant experience-based oral function training was effective for continuing training and improving oral function. This KTP was developed as a participatory type of program that could be enjoyed like a sport.

The participants were 31 healthy older women (mean age of 70.9 ± 4.0 years), living in Kobe. First, this method required the subjects to participate in the Kuchi Building Championship based on KTP. Subsequently, Kuchi Building Self Training to strengthen tongue movement, jaw opening force, and facial and respiratory muscles was performed at home. The participants were asked to continue with this training for 4 weeks. The training continuation rate was 95.2%.

Data for tongue pressure, jaw opening force, forced vital capacity, and maximum expiratory flow rate was compared before and after the training. The degree of their frailty and the feedback from this program were also investigated. Significant differences were observed in lip pressure, tongue pressure, jaw opening force, forced vital capacity (FVC), and peak expiratory flow rate (PEFR) before and after the training

It was observed that participants enjoyed participating and comments focused on their good impressions.

Based on the above, we concluded that KTP showed the effect of continued training and prevented oral frailty.

【緒 言】

高齢者の口腔機能,特に嚥下機能の低下は,低栄養や誤嚥性肺炎の発症に関与するなど身体に様々な悪影響を及ぼすことは周知の事実である1),2),3)4)5)

フレイルは,加齢により身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指し,オーラルフレイルは,そのなかで口腔機能の軽微な低下など口の機能に関する衰えを言い,フレイルの前の状態とされている。そこで,厚生労働省は,オーラルフレイル予防を目的とした口腔機能向上プログラムの実施を推奨し,多くの職種が介護予防教室等で口腔機能向上プログラムを実施し,その成果も報告されている6),7),8)。しかし,それらは専門職から参加者への一方向の指導型健康教育の場合が多く,心身機能を改善することを目的とした機能回復訓練に偏りがちであったことが問題点とされている9)。指導型健康教育とは,教える側の専門職が主体となった教育を指しているが,近年では,患者自身の学習に対する自己決定を支援する「学習援助型」へと変遷している。さらに,参加・体験を重視した健康学習は,自己効力感を高め習慣的な行動変容に有効である10)とされる中で,スポーツ競技大会の方法を導入し,参加者同士の交流や参加者の主体性を重視したような,口腔機能向上プログラムに関する報告はほとんど見られない。

今回,われわれは,参加者交流型の口腔機能訓練は,トレーニングの継続および舌,開口力,呼吸機能の向上に有効であるという仮説を基に,一般社団法人グッドネイバーズカンパニーが開発した,参加者が口腔機能訓練をスポーツ感覚で楽しめる「くちビルディング選手権トレーニングプログラム」に着目し,オーラルフレイル予防のプログラムとしての有効性を検証した。

【対象および方法】

Ⅰ. 対象

兵庫県神戸市在住のヘルスケア開発市民サポーターに対して,神戸医療産業都市推進機構のホームページおよび広報紙を通じて研究協力の募集を行った。対象者の参加条件は,65~79歳の女性であること,会場調査全てに参加可能であること(午前の部か午後の部のいずれか),ヘルスケア開発市民サポーターに登録済みであること,とした。

ヘルスケア開発市民サポーターとは,神戸市を拠点とする神戸医療産業都市推進機構の神戸ヘルス・ラボが運営している制度で,市民参加型のモニター調査を通じてヘルスケア分野の製品・サービス開発を行い,市民の健康増進に貢献することを目的としている。神戸市に在住または通勤・通学している方が登録可能である。

対象者は,初回調査時,研究の目的や方法,安全性,倫理的配慮等について文書にて説明を行い,それらの内容について理解および納得した上で,研究協力者として研究に参加することに同意が得られた39名である。

サンプルサイズの計算には検定力分析ソフトウエア(GPower3)を用いた11)。必要な症例数は,Wilcoxonの符号付順位検定で,効果量0.5(中等度),αエラー0.05,検出力0.8に設定すると35名になることから,目標対象者数は15%程度のドロップアウトを見積もり,40名とした。

Ⅱ. 方法

研究デザインは前後比較試験で,調査期間は2018年9~10月,神戸市の多目的施設で実施した。対象者は,初回にフレイルとオーラルフレイルとの関係,口腔機能,およびその検査目的のミニレクチャーを受講後,「くちビルディング選手権」への参加,口腔機能の測定・評価(自主トレ前測定会),質問紙調査を行い,「くちビル自主トレーニング」のレクチャー(自主トレレクチャー)を受けた。その後4週間,自宅にて「くちビル自主トレーニング」を実施し,初回と4週間後の各項目について比較検討した。「くちビルディング選手権」は,初回と4週間後の計2回開催し,さらに「くちビル自主トレーニング」の進捗をフォローアップする機会として,2週間後に「自主トレ経過共有会」を実施し(図1),自主トレ補足レクチャーや,参加者同士での自主トレの状況等について情報・感想交換を行った。

図1

くちビルディング選手権トレーニングプログラム

1. 「くちビルディング選手権トレーニングプログラム」について

「くちビルディング選手権トレーニングプログラム(以下,KTP)」は,参加交流型の口腔機能に特化したスポーツイベント「くちビルディング選手権」と,自宅で訓練を継続できる「くちビル自主トレーニングキット_ver.1(以下,くちビル自主トレキット)」の2つで構成される。本プログラムは,グッドネイバーズカンパニーが,「自ら興味を持ち,取り組みたくなる」というコンセプトの基に開発した口腔機能訓練である。「~訓練」という用語については,これまで多くの論文で使用されてきたが,日本呼吸ケア・リハビリテーション学会は,「~訓練」という用語は患者に対する強制的または家父長的な指導という印象を与え,軍事訓練のような負のイメージを持たれることもあり,違和感があるという意見が出てきたことを踏まえ,現時点で用語の統一は適切でないものの,今後時代の変遷に合わせて方向転換も検討していくべきであると述べ12),「~訓練」についての見解を示している。KTPは,そのような過去の印象およびイメージを変え,口腔機能向上訓練を遊び心に富んだ“プレイフル”な“スポーツ”へ変換したプログラムである。“プレイフル”とは,直訳すると「遊びであふれている状態」で,好奇心を持って物事に取り組んでいるときの,前向きな姿勢を表現している。

1) 「くちビルディング選手権」について

「くちビルディング選手権」とは,①摂食嚥下機能に特化したスポーツ競技,②医療職との競技開発,③専門職と住民とが新たな関係性を構築する機会とする,④地域の「食支援連携」の輪を広げる機会とする,を軸とし,従来型の口腔リハビリテーションではなく,スポーツ競技として真剣に楽しめ,医療的視点を持ち,摂食嚥下機能に特化した新感覚のスポーツ競技である。すなわち,口腔機能を使った種目で競う全員参加型の運動会様式をとり,総合優勝を目指す「運動会」のように設計されている。今回は,参加者同士5~6名でチームを組み,チームは,午前および午後の部それぞれでランダムに編成した。くちビルディング選手権は,選手宣誓に始まり,口腔機能に関するレクチャーを交え,楽しく口腔の力を使って競技しながら,口腔リテラシーを学べる構成になっている。本選手権でのパフォーマンス向上と仲間作りがひとつの動機付けとなり,セルフエクササイズが継続されることをねらいとし,定期開催される(図2)。

図2

くちビルディング選手権および測定の様子(左上:選手宣誓 右上:選手権中)(左下:開口力測定中 右下:最大呼気流量測定中)

2) 「くちビル自主トレキット」について

「くちビル自主トレキット」とは,グッドネイバーズカンパニーが,舌,開口力,および呼吸の強化を目的に既存のトレーニング13),14),15)16)17)を再設計し考案したトレーニングとそのマニュアル,継続の自己管理ができるように工夫されたカレンダーとがキット化されたものである。トレーニングは,舌の筋肉の強化には「タン練」と「早飲みるく」,開口力の強化には「はずしマスク」と「ヒトカワむけパック」,呼吸の強化には「ふぅ~せんトレーニング」という名称がつけられている(図3)。「タン錬」はニップルを20回つぶす×2セット×週3回,「早飲みるく」は50ccの水分(今回はお茶)を飲む×1セット×週3回,「はずしマスク」はマスクを顎まで降ろす×5セット×週3回,「ヒトカワむけパック」は顔を動かしてパックを剥がす×1セット×週1回,「ふぅ~せんトレーニング」は風船を3回膨らませる×3セット×週3回とした。各トレーニングの負荷量,回数,および頻度は先行研究13),14),15)16)17)を参考に設定した。カレンダーは,「自主トレチャレンジカレンダー」という名称がつけられ,曜日とその日に実施するトレーニング内容が分かるように工夫されている。対象者はトレーニングを行った日にシールを貼ることとした。

図3

舌・開口力・呼吸に特化した自主トレーニング

2. 口腔機能の測定および評価

測定項目は,最大舌圧18),開口力19),20),21),努力性肺活量22),最大呼気流量23)の4項目とし,初回および4週間後に実施した。4項目はそれぞれトレーニングに対応した機能となっており,最大舌圧は「タン錬」と「早飲みるく」,開口力は「はずしマスク」と「ヒトカワむけパック」,努力性肺活量と最大呼気流量は「ふぅ~せんトレーニング」である。最大舌圧はJMS舌圧測定器(株式会社ジェイ・エム・エス,広島),開口力は開口力トレーナーKT2015(リブト株式会社,東京),努力性肺活量および最大呼気流量は肺年齢計スパイロシフトSP-350COPD(フクダ電子株式会社,東京)を用いて測定した。最大舌圧と開口力は各2回測定し,平均値を測定値とした。努力性肺活量および最大呼気流量は各1回測定した。各測定には,事前に講習を受け,機器の操作に精通した歯科衛生士,理学療法士等の医療従事者を2名ずつ配置した。事前の講習では,基本的な機器操作の練習に加え,測定バイアスを小さくするために,測定者間で手技の統一の確認を行った。

3. 質問紙調査

初回のミニレクチャーの効果および,オーラルフレイルが身体的・社会的フレイルに与える影響についても調査するため,自記式質問紙によるフレイルの簡易評価と,プログラム全体を通した感想の調査を行った。フレイルの評価は,「イレブン・チェック」(表124)を用いて,栄養(食・口腔),運動,社会参加の3項目に関する生活習慣についての全11問の質問に,「はい」「いいえ」の2択で回答してもらい,好ましくない習慣の場合を1点として,項目ごとに合計点数を算出した。なお,Q4,8,11は逆転項目となっている。各項目の最大点は,栄養(食・口腔)が4点,運動が3点,社会参加が4点である。感想は,自由記述により回答を回収した。

表1

「イレブン・チェック」24)


4. 期間の設定

訓練効果を見る期間の設定については,田代および森崎らは,口腔体操や訓練等の介入は2ヵ月以上で有効であると報告している13),25)。一方で,中澤らは,30日間のガム噛みトレーニングにより,咀嚼能力が有意に向上したと報告し26),巻らは,1ヵ月間の呼吸トレーニングにより,呼吸機能,嚥下機能およびQOLが有意に改善したと報告している27)。また,Matsubaraらは,4週間の開口訓練により,嚥下機能の改善を認めたと報告している16)。したがって,1ヵ月という短期間においても口腔機能に変化を認める報告が確認できたことから,本研究では,期間を4週間と設定し,プログラム効果とその継続性について調査することとした。

5. 統計処理

トレーニングの有効性については,Wilcoxonの符号付順位検定を用い,口腔機能の各測定値およびイレブン・チェック3項目の,初回と4週間後の比較を行った。統計解析にはIBM SPSS Statistics for Windows, Version 28(IBM Japan, Ltd., Tokyo, Japan)を用い,有意水準は5%とした。また,トレーニングの実施率については,「自主トレチャレンジカレンダー」に貼られたシールの枚数,つまりトレーニングの実施回数を,全て実施した場合の回数で除し,実施率を求めた。

質問紙調査の感想は,User Local AIテキストマイニングツール(https://textmining.userlocal.jp/,株式会社ユーザーローカル,東京)を用いて,単語頻出度の解析を行った。

6. 倫理的配慮

本研究は,神戸常盤大学短期大学部研究倫理委員会の承認(神常短研倫第17-15号)を得て実施したものであり,対象者には,研究者が書面により研究目的等について説明を行い,書面で同意を得たのち,さらに自由に撤回できるように同意撤回書を手渡して行った。分析は,対応表を用いてデータを匿名化した。

【結 果】

Ⅰ. 対象者について

初回調査時に同意が得られた39名のうち,2週間後と4週間後のいずれか1回でも不参加だった8名を除外し,全プログラムに参加した者31名(79.5%,平均年齢70.9±4.0歳)を解析対象とした。

Ⅱ. 口腔機能について

最大舌圧の中央値は,初回32.75kPa,4週間後34.40kPa(r=0.28,p=0.030)(図4),開口力の中央値は,初回4.85kg,4週間後5.70kg(r=0.32,p=0.011)(図5),努力性肺活量の中央値は,初回2.13L,4週間後2.50L(r=0.40,p=0.002)(図6),最大呼気流量の中央値は,初回4.38L/秒,4週間後5.81L/秒(r=0.43,p<0.001)(図7)だった。4項目全てにおいて,統計学的有意に向上した。

図4

訓練前後の最大舌圧の比較

図5

訓練前後の開口力の比較

図6

訓練前後の努力性肺活量の比較

図7

訓練前後の最大呼気流量の比較

Ⅲ. フレイルの評価について

イレブン・チェックの各項目では,運動が初回中央値1点,4週間後中央値0点と,有意に改善した(r=0.30,p=0.020)。栄養(食・口腔)は,初回中央値0点,4週間後中央値1点(r=0.03,p=0.843),社会参加は,初回中央値1点,4週間後中央値1点(r=0.12,p=0.358)で,ともに有意な変化は認めなかった(図8)。

図8

訓練前後のイレブン・チェックの比較

Ⅳ. トレーニングの実施率について

自宅での自主トレーニングの実施率は平均95.2%で,全体の約6割にあたる20名が100%実施していた。

Ⅵ. 感想の内容について

単語頻出度の解析を行った結果,抽出された有効な単語数は146,延べ201だった。品詞それぞれで最も多かったのは,名詞が「意識」9回,動詞が「できる」4回,形容詞が「楽しい」6回だった。なかでも最も多かった「意識」については,「自分自身の肺機能を意識するようになった」,「意識して口を動かすことの重要性を教えてもらいました」など,身体や気持ちの変化に関する内容だった。

【考 察】

Ⅰ. 口腔機能および質問紙調査の結果について

口腔機能については,最大舌圧18),開口力19),20),21),努力性肺活量22),最大呼気流量23)は,初回と4週間後の間に有意な向上が認められ,Matsubaraらの報告16)にあるように,4週間で訓練の効果があることが示された。

フレイルの評価について,「栄養(食・口腔)」と「社会参加」に有意な変化がなかったのは,研究対象者が,神戸市のへルスケア開発市民サポーターへの登録者であり,本研究に興味をもったという,健康状態に問題がなく,さらに健康に興味関心の高い集団であったのが要因ではないかと推察される。また今回使用したフレイル・チェックは,点数が高いほど好ましくない習慣を示すため,初回が1点で,4週間後では0点(r=0.30,p=0.020)に下がっているということは,好ましい習慣へと変化したことを示している。すなわち対象者は,今回のプログラムに参加したことで「運動」に関する生活習慣が改善した可能性がある。

感想の頻出単語では,「意識」というワードが上位に挙がった。上位に挙がったのは,講義を受けることで口腔の機能が身体の健康維持に関係するという新たな知識を得たことで,重要性を意識したからではないかと考えられる。その意識は,自主トレを行うという行動と励むという気持ちを生み,続いて,自主トレを続けることで時間の短縮などの成果を実感したことから,自分もやればできるという自信に繋がったと思われる。さらにその自信は,自主トレが楽しいという感覚を持たせた可能性がある。この自信と楽しさは,自主トレの習慣化の基になり,トレーニングの実施率や口腔機能,フレイルの結果に繋がったと考えられる。

Ⅱ. KTPについて

くちビルディング選手権は,チームで楽しく支えあう,競い合うという,運動会形式の設計となっていることが特徴である。チームの一員という連帯感が,次の選手権では優勝したい,優勝するためには,自分が息を吐く力や口腔周囲の筋力を落としてはいけないという気持ちを掻き立て,ますます自主トレに励むという良い循環を生んでいるのではないかと考える。

自主トレーニングは,「はずしマスク」の所用時間や「早飲みるく」の飲む時間が短縮されていくなど,どの訓練も上達していく過程が自身で確認でき,自己効力感が高まる仕掛けがされている。先行研究6),7),8)では,訓練についての指導は初回のみで終わることが多く,途中経過の調査が行われた場合でも,研究者と対象者の2者間のみで実施されることが多い。本研究では,研究者と対象者の2者間に加えて,対象者同士の交流があること,2週間に一度の会が実施され,定期的な参加型であったこと,「くちビルディング選手権」での再会が,お互いの成果の情報交換の場となり,その後のやる気を起こしたことが,積極的な訓練の継続に繋がったと推察される。さらに,グッドネイバーズカンパニー作成の独自のカレンダーの役割も大きい。この「自主トレチャレンジカレンダー」には,ゴールを目指してシールを貼るという,自身の頑張りを楽しく可視化できるような遊びの要素が加えられており,日々の訓練を楽しくワクワクするものにし,さらに,その達成感をより得られる工夫がなされている。この工夫が,対象者の行動意欲をそそり,継続に繋がったと考えられる。これについては,プログラム開催日において参加者が発した,「カレンダーをすべて埋めたい」,「シールを貼るのがおもしろい!」,「できたことが見える化されると,やる気の向上・持続に効果があると実感しました」,「カレンダーをつけることで,トレーニングは日々上達する感覚がわかり,楽しく続けることができました!」などの言葉からも伺える。ただしこのような調査では,申告者が理想と考えている数値に近づくように修正を加えて申告する自己申告バイアス28),29)が存在することも否定できないため,結果の信頼性については,今後さらなる調査が必要である。

Ⅲ. 本研究の限界や今後の課題

1.対象者は神戸市在住の女性のみであるため,他地域や男性に対しても同様の結果が得られるかどうかは不明である。

2.単群での前後比較試験のため,結果の解釈において比較対象がない。

3.対象者がヘルスケア開発市民サポーターへの登録者であったことから,選択バイアスの影響が否定できない。

以上のことをふまえ,今後さらに対象者数を増やし,性差や地域差の検討,研究デザインの見直しなどを行う必要がある。

【結 論】

65歳以上の地域在住女性高齢者31名に対して実施した「くちビルディング選手権トレーニングプログラム」は,トレーニングの継続および舌,開口力,呼吸機能の向上に効果があり,オーラルフレイル予防のプログラムとして有効である可能性がうかがえた。

【謝 辞】

本研究を遂行するにあたり,多大なるご支援とご指導ご協力をいただきました,一般社団法人グッドネイバーズカンパニーの理学療法士 児島満理奈様,医師 清水愛子様をはじめ,公益財団法人神戸医療産業都市推進機構および神戸市ヘルスケア開発市民サポーターの皆様に深く感謝申し上げます。

本研究は,一般社団法人グッドネイバーズカンパニーと神戸常盤大学の共同研究で収集されたデータを用いており,一般社団法人グッドネイバーズカンパニーから神戸常盤大学へ共同研究費が提供されております。

References
 
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