日本歯科理工学会誌
Online ISSN : 2188-417X
Print ISSN : 1884-4421
ISSN-L : 1884-4421
特集「軟質リライン材の現状と展望」
軟質リラインによる下顎全部床義歯の臨床
─臨床エビデンス,臨床の注意点と今後─
河相 安彦
著者情報
ジャーナル フリー

2024 年 43 巻 3 号 p. 131-134

詳細
抄録

はじめに

軟質材料を用いた下顎全部床義歯のリラインは古くから行われてきた治療法であるが「逃げの治療」と否定的に捉える歯科医師が存在するのも事実である.一方,我が国の超高齢化がこの材料を「逃げの治療」から「次の一手」へ変化させている.令和4年度歯科疾患実態調査の表10-17から,調査対象者数に対する無歯顎者率の経年的な減少(1975年7.9%から2022年4.0%)と,全無歯顎者に75歳以上が占める割合の増加(1975年21%から2022年77%)が読み取れる(図1).今後もこの傾向が続くと,外来中心の診療から制約が多い歯科訪問診療等の比重が増えると考えられる.また日本補綴歯科学会症例難易度分類による難症例(難易度Ⅳ)が増加し,通法の義歯床用材料を用いた下顎全部床義歯では咀嚼時の疼痛に起因する咀嚼障害等の解決が難しいことも予想される.2016年4月,下顎全部床義歯の間接法リラインにシリコーン系軟質リライン材が保険収載され,その後アクリル系軟質リライン材も収載されたことは,まさに我が国の超高齢化に呼応した「次の一手」の治療法として認知されたものと推察される.そこで本稿は,下顎全部床義歯の軟質リラインは有効なのか,という問いに対する最新の臨床エビデンスを整理し,臨床の実際と注意点,ならびに現状の課題と今後についてまとめたい.

著者関連情報
© 2024 一般社団法人 日本歯科理工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top