1997 年 1 巻 1 号 p. 15-30
伝統的な嚥下の4期連続モデル(four-stage sequential model)を用いて,液体の嚥下時に生じる事象はうまく説明できる.しかし最近になって,健常者の固形食嚥下の研究の結果,従来のモデルには限界のあることがわかってきた.人間が固形食を食べる過程は,人間以外の哺乳類の研究を通して得られた過程モデル(Process model)を使用することで,説明,分類できる.いくつかの重要な新しい発見が指摘できる.すなわち,1.顎と舌の運動は,咀嚼や食物の送り込みの際,連動している.2.口腔内で食物の破砕(processing)が行われている間にも,咀嚼のすんだ食物は口峡を通って中咽頭(口腔咽頭)へと送り込まれている.3.固形食の食塊形成は,口腔ではなく咽頭で行われる.4.咽頭嚥下が開始される前に,食塊が中咽頭に5秒もしくはそれ以上集積することもある.これらの新しい発見を取り入れて,改訂版嚥下4相モデル(revised four-phase model)を提案する.この新しいモデルは,正常生理および異常嚥下を考える上で,重要な意味を有する.