日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
咀嚼・嚥下障害者に提供する全粥の物性変化の抑制について
野原 舞栢下 淳
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キーワード: , ゼラチン, かたさ, 付着性
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2010 年 14 巻 2 号 p. 145-154

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抄録

【目的】全粥は,咀嚼・嚥下機能の低下した人の主食として提供されているが,温度の低下とともに物性が変化する.温度の低下による全粥の物性変化を抑制する方法として,ゼラチンの添加が知られているが,全粥の添加に適したゼラチンの特徴についての報告はみられない.よって,この特徴について検討することを目的とした.

【方法】米重量の5 倍の水を添加して調製した全粥に,湯に溶解したゼラチンを添加した.ゼラチンの原材料は牛骨,豚皮,魚の3 種類で,ゼリー強度(10℃で17 時間保存した6.67% ゼラチンゲルを4 mm 圧縮するのに必要な荷重)はそれぞれ150 g と200 g の,計6 種類を用いた.添加濃度は1.0%,2.0%,3.0%とした.物性値は,ゼラチン添加直後(0 分),20℃で保温30 分後,60 分後にクリープメータを用いて測定し,かたさ,付着性を算定した.官能評価は,ゼラチン添加直後と60 分後の粥について行い,味,香り,飲み込みやすさについて評価した.

【結果】物性測定では,ゼリー強度150 g の魚ゼラチンを3.0% 添加した場合に,最もかたさと付着性の増加が抑制された.官能試験では,ゼリー強度150 g の魚ゼラチンを3.0% 添加した場合に,対照(ゼラチン無添加)より有意に飲み込みやすいと評価され,味や香りへの影響も小さかった.

【考察】魚ゼラチンは,常温までの温度の低下では粘度の増加が少なく,ゲル化が起こらなかった.その理由として,魚ゼラチンの凝固点が低いことが考えられる.そのため,かたさと付着性の増加が抑制され,官能試験においても対照より有意に飲み込みやすいと評価されたと考えられる.本実験の結果から,ゼリー強度150 g の魚ゼラチンを3.0% 添加した全粥は,摂食に時間のかかる咀嚼・嚥下障害者にも提供できる可能性が示唆された.

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© 2010 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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