日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
14 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 中津 沙弥香, 石原 理子, 前西 政恵, 柴田 賢哉, 坂本 宏司, 横山 輝代子
    2010 年 14 巻 2 号 p. 95-105
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    【目的】凍結含浸法は,食材の形状を維持したまま軟化させることができる加工技術である.本技術で処理した食材は,高齢者用食品や介護用食品として利用できる可能性があると考えた.本研究では,凍結含浸法で処理した軟化食材の提供に適した対象者を明らかにすることを目的として,咀嚼・嚥下機能の異なる高齢者を対象とした摂食評価を行った.

    【方法】凍結含浸法で軟化処理したタケノコ,ゴボウ,レンコンおよびニンジンの4 種類の根菜類について,介護施設入所者65 名を対象に摂食評価を行った.普段の食事形態から対象者を,普通食群,キザミ食群,極キザミ食群およびミキサー食群の4 つに分類した.4 種類の凍結含浸食材を対象者に提供して,「見た目」,「硬さ」および「飲み込みやすさ」の3 項目について,普通を0 点とした± 2 点の5 段階で嗜好性を評価した.

    【結果】凍結含浸食材の「見た目」の評価は,普通食群に比べて,キザミ食群,極キザミ食群およびミキサー食群のほうが高かったが,有意差は認められなかった.「硬さ」と「飲み込みやすさ」の評価は,対象者の普段の食事形態との間に有意な相関関係があり(p<0.05),咀嚼・嚥下機能が低下している群ほど高かった.特に極キザミ食群およびミキサー食群において,食べやすいという意見が多く,対象者の自発的な摂食を促す傾向が認められた.

    【結論】凍結含浸法で処理した軟化食材は,極キザミ食やミキサー食を喫食している対象者に適している可能性が示唆された.本食材は,極キザミ食やミキサー食に代わりうる可能性があると考えられた.

  • 島田 久寛, 谷口 裕重, 井上 誠
    2010 年 14 巻 2 号 p. 106-115
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    【目的】食品は口腔内に取り込まれると,歯・舌・頬粘膜・口蓋などにより粉砕されるとともに,唾液と混合されて食塊が形成される.本研究は,食品粉砕による食塊の粒度の違いや唾液との混合による水分値の違いが食塊物性にどのような影響を与えるのか,さらに咀嚼を経ない随意嚥下時に口腔内に存在する食塊物性の特徴を明らかにすることを目的とした.

    【方法】試料として粒度の異なる微粒子状の試料4 種(アーモンド粉砕品:大・中・小,さらしあん)を用いた.模擬唾液3 種(蒸留水・キサンタンガム0.05% 水溶液・キサンタンガム0.2% 水溶液)の添加量を変化させて各試料と混合したものを疑似食塊として,それぞれの組み合わせによって作製した疑似食塊のテクスチャー特性値(硬さ,凝集性,付着性),さらにガラス板上での広がり面積により流動性の値を得た.さらに,健常者を用いてこれらの試料を口腔内に含んだ後に嚥下直前に吐き出してもらい,それらの水分値を測定した.

    【結果】各試料とも,模擬唾液の添加量を変化させることで,疑似食塊の物性が大きく変化した.水分値の違いによる物性変化の過程は,食品の粒度により異なっていたものの,嚥下直前食塊の水分値における疑似食塊の物性をみると限られた帯域に分布しており,硬さは9,400 から11,900 N/m2,凝集性は0.48 から0.66,付着性は1,000 から3,300 J/m3,流動性は20 から70 cm2 の間に収束していた.また,アーモンド粉砕品(大)を食塊として使用した際には,多くの被験者が嚥下にいたらず,さらにこの試料を用いた疑似食塊を用いた場合,上記の帯域にあてはめることができなかった.

    【結論】食品の粒度や含有水分量の増減により,食塊物性は変化した.また,食塊の硬さ,凝集性,付着性,および流動性には,随意嚥下可能と判断するための適した範囲があると考えられる.

  • 内宮 洋一郎
    2010 年 14 巻 2 号 p. 116-122
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    高齢者に対する口腔ケアの有用性については多くの報告がある.そのほとんどは,口腔内細菌と誤嚥性肺炎の関連について言及している.しかし,口腔内細菌数は絶えず変化しており,一度のサンプル採取で対象者の口腔内細菌数を測定しても,その値を評価することは難しい.そこで未だ詳細が明らかにされていないADL が低下した人々における口腔内細菌の日内変動を把握することを考えた.

    対象者は某県内のリハビリ施設入居者と病院入院患者の中から,次の条件をすべて満たした36 名を選んだ.すなわち,1)年齢50 歳以上の者,2)介護保険の分類で要支援から要介護2 までで,セルフケアができている,3)10 ml の滅菌生食水で30 秒うがいし,吐き出すことができる,4)前記の課題を1 日7 回実施できる,5)検体採取の3 週間前から抗生物質を服用していない,の5 つの条件である.口腔内細菌の検体は毎食の前後,それに就寝前の1 日計7 回,滅菌生食水で30 秒間うがいさせた後,それを試験管に採取して搬送した.これを培養し,口腔内細菌数(CFU/ml)を算定した.

    その結果,1)口腔内細菌数は朝食前に最高値,夕食後に最低値を示した.2)食事の前後における変化は,毎食前から毎食後に有意な減少を認めた.3)女性は男性より口腔内細菌数が多かった.4)脳血管疾患の有無により口腔内細菌数に差は認めなかった.5)義歯装着の有無により口腔内細菌数に差は認められなかった.6)残存歯の多少も口腔内細菌数に影響しなかった.以上のうち,義歯装着の有無に関して有意差はなかったが,口腔内細菌数の平均値の推移をみると,義歯装着者は1 日7 回とも,義歯を装着していない人より細菌数が多かったので,口腔ケアの必要性が高いと推測された.

    以上より,口腔内細菌数を左右する最大の因子は食事であること,また女性に多いことが明らかとなった.特定の個人に絞って不顕性誤嚥に起因する誤嚥性肺炎を重点的に予防する目的であれば,就寝前の口腔ケアが効果的であると考えられる.

  • ─平成16 ~ 18 年の各市消防局への救急要請─
    芦田 貴司, 小野 圭昭, 田中 栄士, 上杉 直斗, 村岡 正規, 小正 裕
    2010 年 14 巻 2 号 p. 123-133
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    【目的】近年,誤飲・誤嚥事故を目的として嚥下機能の解明,摂食・嚥下障害原疾患の予防および治療法の確立等の研究がおこなわれているが未だ十分ではなく,摂食・嚥下障害をもつ患者や高齢者では日々誤飲・誤嚥事故のリスクに直面している.そこで,阪神地区を調査対象として,市消防本部への調査を実施して誤飲,誤嚥事故の実態を明らかにし,その調査結果を詳細に分析することにより窒息事故を回避する一助とすることを考えた.市消防本部への調査を実施し,3 カ年の全救急業務の中から誤飲・誤嚥に関する事案を抽出して,その内容を検討した.

    【方法】都市圏のベッドタウンのひとつである阪神地区を対象に,平成16 年から18 年までの3 カ年に各市の消防局・消防本部に救急要請があった全救急事故のうち,一般負傷の中から,誤飲・誤嚥に関するすべての事案を抽出し分析をおこなった.調査内容は,①性別,②年齢,③傷病程度,④覚知時刻,⑤事故概要,である.

    回収したデータをもとに誤飲,誤嚥とその他の3 群に分類した.この調査は,平成19 年2 月におこなった.

    【結果】今回の調査対象とした地域の救急車要請件数は年平均261.7 件であった.そのうち,誤飲件数の割合は年平均15.8%,誤嚥件数の割合は年平均75.5%,その他の割合は年平均8.7% であった.

    誤嚥件数では,男女間に有意な差が認められた.年齢別発生件数では,誤飲は若年層に多く,誤嚥は後期高齢者でもっとも多かった.傷病程度は誤飲,誤嚥事故とも軽症がもっとも多かった.しかし,誤嚥事故の中には,誤飲事故ではみられなかった重症や死亡例が認められた.覚知時刻は,誤飲事故のもっとも多く発生したのは20 時台で,誤嚥事故は12 時台であった.原因物質は,誤飲事故でもっとも多かったのは薬品で,誤嚥事故ではパンであった.

    【考察】それぞれの食事形態や食べ物の特性を理解して食べることは,窒息を防止する効果的な方法である.また,家族との同居の場合には,家族に救急システムの指導をおこなうことや,窒息を解除する方法を指導するなどの啓発活動の重要性が示唆された.

  • ―ブラックペッパーオイルとカルダモンオイルの場合―
    伊藤 晃, 山村 千絵
    2010 年 14 巻 2 号 p. 134-144
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    【目的】唾液は咀嚼や嚥下に重要であり,唾液分泌が少ない場合は,マッサージや口腔の運動により分泌を促す方法がとられている.しかし,これらを適応できるのは,意識レベルが良好で自発運動が可能な人たちが主である.本研究では,患者さんの状態によらず簡便に行うことができるニオイ刺激に注目し,ブラックペッパーオイル(Black Pepper Oil, 以下BPO)とカルダモンオイル(Cardamon Oil, 以下CO)のニオイを嗅がせることにより,唾液分泌量がどう変化するかを定量的に調べることを目的とした.

    【対象と方法】被験者は,アレルギー,口腔乾燥症状,嗅覚障害等がない健康な成人男女43 名(男性18名,女性25 名,平均年齢±標準偏差=21.8±1.2 歳)とした.ニオイ刺激の試料はアロマオイル100%の原液を用い,BPO,CO および無臭対照試料のホホバオイル(jojoba oil, 以下JO)の3 種類とした.それらをスティック状のムエットに塗布し,被験者の鼻孔の前30 mm の位置に呈示し,通常呼吸によりニオイを嗅がせた.ニオイを嗅いでいる間の唾液分泌量を30 秒間ワッテ法にて4 回ずつ測定し,その平均値を測定値とした.認知的要因が唾液分泌に影響を及ぼす可能性を排除するため,ニオイ試料の名前の開示は実験終了後に行った.

    【結果】安静時やJO 刺激時に比べ,BPO 刺激時やCO 刺激時に唾液分泌量が有意に増加した.BPO 刺激時とCO 刺激時の唾液分泌増加量に有意差はなかった.また,男性と女性による増加量の差はなかった.

    【考察】BPO は島皮質を活性化し嚥下反射の潜時を短縮すること等がすでに明らかになっており,BPO のアロマパッチは嚥下リハビリテーションの臨床に応用されている.さらに,本研究により,BPO やCO には唾液分泌促進効果があることが定量的に示された.ニオイ刺激を用いて,唾液分泌等の口腔内環境を改善させることができる可能性が示唆された.

  • 野原 舞, 栢下 淳
    2010 年 14 巻 2 号 p. 145-154
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    【目的】全粥は,咀嚼・嚥下機能の低下した人の主食として提供されているが,温度の低下とともに物性が変化する.温度の低下による全粥の物性変化を抑制する方法として,ゼラチンの添加が知られているが,全粥の添加に適したゼラチンの特徴についての報告はみられない.よって,この特徴について検討することを目的とした.

    【方法】米重量の5 倍の水を添加して調製した全粥に,湯に溶解したゼラチンを添加した.ゼラチンの原材料は牛骨,豚皮,魚の3 種類で,ゼリー強度(10℃で17 時間保存した6.67% ゼラチンゲルを4 mm 圧縮するのに必要な荷重)はそれぞれ150 g と200 g の,計6 種類を用いた.添加濃度は1.0%,2.0%,3.0%とした.物性値は,ゼラチン添加直後(0 分),20℃で保温30 分後,60 分後にクリープメータを用いて測定し,かたさ,付着性を算定した.官能評価は,ゼラチン添加直後と60 分後の粥について行い,味,香り,飲み込みやすさについて評価した.

    【結果】物性測定では,ゼリー強度150 g の魚ゼラチンを3.0% 添加した場合に,最もかたさと付着性の増加が抑制された.官能試験では,ゼリー強度150 g の魚ゼラチンを3.0% 添加した場合に,対照(ゼラチン無添加)より有意に飲み込みやすいと評価され,味や香りへの影響も小さかった.

    【考察】魚ゼラチンは,常温までの温度の低下では粘度の増加が少なく,ゲル化が起こらなかった.その理由として,魚ゼラチンの凝固点が低いことが考えられる.そのため,かたさと付着性の増加が抑制され,官能試験においても対照より有意に飲み込みやすいと評価されたと考えられる.本実験の結果から,ゼリー強度150 g の魚ゼラチンを3.0% 添加した全粥は,摂食に時間のかかる咀嚼・嚥下障害者にも提供できる可能性が示唆された.

症例報告
  • 福岡 達之, 杉田 由美, 川阪 尚子, 吉川 直子, 新井 秀宜, 巨島 文子
    2010 年 14 巻 2 号 p. 155-161
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    症例は41 歳女性,Foix-Chavany-Marie 症候群(FCMS)の患者である.両側顔面下部,舌,咽頭,咀嚼筋に重度の随意運動障害を認め,構音不能と嚥下障害を呈した.罹患筋の随意運動はわずかな開口以外不可能であったが,笑いや欠伸などの情動・自動運動は保持されており,automatic voluntary dissociation がみられた.嚥下造影は30 度リクライニング位,奥舌に食物を挿入する条件下で実施したが,咽頭への有効な送り込み運動はみられず重度の口腔期障害を認めた.顔面,下顎,舌に対して他動的な運動療法を実施するも,罹患筋の随意運動は改善しなかった.本例では咀嚼の随意運動も不可能であったが,非意図的な場面では下顎と舌による咀嚼運動が生じ,唾液を嚥下するのが観察されていた.そこで,この保持された咀嚼の自動運動を咽頭への送り込み方法として利用できると考え,咀嚼の感覚入力と咀嚼運動を誘発する訓練を試みた.咀嚼運動を誘発させる方法としては,食物をのせたスプーンで下顎臼歯部を圧迫する機械刺激が有効であり,刺激直後に下顎と舌のリズミカルな上下運動が生じて咽頭への送り込みが可能であった.この刺激方法を用いて直接訓練を継続した結果,咀嚼運動による送り込みと45 度リクライニング位を組み合わせることで,ペースト食の経口摂取が可能となった.本例で嚥下機能が改善した機序として,咀嚼運動を誘発させる直接訓練の継続が,咀嚼運動の入力に対する閾値低下と咀嚼のCPG 活性化につながり,咀嚼運動による送り込みの改善に寄与したものと考えた.FCMS では,発声発語器官の諸筋群に生じる重度の随意運動障害により,準備・口腔期の嚥下障害を呈するが,訓練経過の報告は少なく,訓練方法を考えるうえで貴重な症例と思われ報告した.

  • 田杭 櫻子, 川戸 仁, 向井 美惠
    2010 年 14 巻 2 号 p. 162-171
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    乳児喘息として早期介入を行ったものの症状の改善に乏しい難治症例に対し,摂食・嚥下リハビリテーションを行って気道症状の改善をみた4 例を経験した.初診時,全例に摂食・嚥下機能発達の遅れ,食形態・介助不適がみられ,3 例に食欲不振がみられた.

    【症例1】1 歳8 カ月男児.ダウン症候群.10 カ月時に喘息加療開始後も改善せず,誤嚥の疑いで紹介.初診時,後期食を舌突出嚥下により丸呑みし,食事中喘鳴増悪.食形態・介助法・哺乳瓶使用姿勢を指導.喘鳴は改善し,管理薬は漸減した.

    【症例2】11 カ月男児.片側口唇裂.5 カ月時に喘息加療開始後も改善せず,嚥下障害の疑いで紹介.初診時,捕食・押し潰し機能不全と評価.食欲不振あり.食形態,捕食訓練を指導.喘鳴は改善し管理薬は漸減した.

    【症例3】1 歳4 カ月女児.基礎疾患なし.1 カ月時にRS ウイルス感染,胃食道逆流症で入院.以後,喘鳴と炎症で入退院を反復.6 カ月時より喘息加療開始後も改善せず,誤嚥の疑いで紹介.初診時,幼児食刻みを水分で流し込み,ムセ・喘鳴頻繁.食形態・食環境不適と評価.食欲不振あり.入院時中心の指導で機能発達がみられ,管理薬は減少されていないものの発作頻度は減少した.

    【症例4】1 歳4 カ月男児.基礎疾患なし.胃食道・鼻咽頭逆流症疑いにより4 カ月よりミルクに増粘剤添加,10 カ月より喘息加療開始後も喘鳴改善せず.嚥下障害の疑いで紹介.初診時,咀嚼機能不全,食形態不適と評価.食欲不振あり.鼻咽腔閉鎖訓練と食形態を指導し,喘鳴と食事量は改善した.

    指導により,全例に喘息発作の回数および管理薬の減少と摂食・嚥下機能発達の遅れの改善が認められ,食欲不振の3 例中2 例に改善がみられたことから,摂食・嚥下リハビリテーションが乳幼児の反復性喘鳴の改善に寄与する可能性が示唆された.乳児喘息の難治症例では,嚥下障害の可能性も考慮して,摂食・嚥下機能評価を行い対応することが必要なのではないかと考えられた.

feedback
Top