日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
VE 導入による経口維持への取り組みの成果
―誤嚥性肺炎等減少と入院日数減少による経済的効果―
大久保 陽子中根 綾子柴野 荘一栩木 紫緒
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2011 年 15 巻 3 号 p. 253-263

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抄録

【目的】介護保険施設において,栄養ケア・マネジメントが創設され,摂食・嚥下障害が低栄養状態に大きく寄与している点に着目し経口維持加算が創設された.しかし,算定条件である嚥下内視鏡検査(VE)等を行える医療連携がないこと等から,加算取得の進まない現状がある.今回,VE を導入し,多職種連携による経口維持計画の実施により,誤嚥性肺炎等による入院数の減少と施設の経済的効果を実証し,知見を得たのでここに報告する.

【方法】平成19 年より往診によるVE を導入し,各利用者に適した食事形態や水分のとろみ濃度,介助方法等の具体的な指示を受け経口維持計画を作成,実施した.VE 導入前をⅠ期,導入後3 年間をⅡ期~Ⅳ期とし,それぞれの期における施設利用者の全入院日数と入院理由,そのうち誤嚥性肺炎等での入院日数を調査し,施設の介護サービス費の減収額を算出した.さらに,経口維持加算の算定額の推移についても調査した.

【結果】すべての期において誤嚥性肺炎等は入院理由の1 位を占めており,Ⅰ期には誤嚥性肺炎等での入院日数は延べ933 日であった.Ⅱ期には406 日,Ⅲ期には487 日,Ⅳ期には190 日と誤嚥性肺炎等での入院日数が減少したのに伴い全入院日数も減少し,Ⅰ期と比べⅣ期約920 万円の増収となった.経口維持加算収入でみても,Ⅰ期約27 万円からⅣ期約110 万円と増収がみられたため,合計すると,Ⅰ期と比べⅣ期には約1,000 万円の増収となった.

【考察】VE の結果から,実際の嚥下機能にあった形態や水分の形状,介助方法等の指示を受けることで,安全な食事環境の設定が可能となる.これらを経口維持計画に盛り込むことで,誤嚥性肺炎等をはじめとした入院日数の減少につながった.これらは,利用者のQOL の確保はもちろんのこと,増大する医療費の抑制,施設収入の確保が可能になると考えられ,今後も経口維持に対する取り組みが広がることが切望される.

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© 2011 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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