2012 年 16 巻 3 号 p. 276-282
【目的】本研究の目的は,超音波診断装置(US)を用いて,頭部の姿勢変化が嚥下時の甲状軟骨運動に与える影響を調べること,および,US で描出した甲状軟骨運動が,頭部のポジショニング調整等の際に簡便で有効な評価指標となるかどうかを検討することであった.
【対象と方法】健常成人男性9 名(25.4±5.3 歳)を被験者とした.被験者は椅子に座り,壁に背と後頭部が接するよう座位姿勢を固定した.頭部の姿勢は,頭頸部中間位(中間位)と,頭部最大伸展位(頭部伸展位)の2 種類に変化させた.US による甲状軟骨の描出は,プローブを甲状軟骨の左側方にあてることにより行った.その際,甲状軟骨の最上部を指標として,最上部が超音波モニター画面の中心となるように調整した.嚥下時の甲状軟骨運動時間を挙上時間,停滞時間,下降時間の3 つの区分に分類し,それぞれの時間を測定した後,挙上時間,停滞時間,下降時間を合わせた全運動時間を求めた.いずれの場合も,3 回の記録の平均値を測定値とした.
【結果】US にて,甲状軟骨およびその運動をはっきりと捉えることができた.挙上時間,停滞時間の平均では,頭部姿勢の変化による有意差は認められなかった.下降時間の平均は,中間位が0.73±0.15 s,頭部伸展位では0.94±0.15 s であり,頭部伸展位で下降時間が有意に延長していた(p<0.05).全運動時間の平均は,中間位が1.51±0.11 s,頭部伸展位では1.89±0.15 s であり,頭部伸展位で全運動時間が有意に延長していた(p<0.01).
【結論】US で描出した嚥下時の甲状軟骨運動を解析し,中間位と頭部伸展位の姿勢変化において,頭部伸展位では,甲状軟骨の下降時間と全運動時間が延長することが明らかになった.ベッドサイド等で嚥下動態の評価を簡便にかつリアルタイムに行えるUS を使用し,嚥下時の甲状軟骨運動の評価を行った結果,摂食時のポジショニング調整等の指標として利用できる可能性が示唆された.