日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
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口唇の開閉状態が至適1 回嚥下量に与える影響
阿志賀 大和阿部 沙織原口 裕希須藤 崇行金子 雄太山村 千絵
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2012 年 16 巻 3 号 p. 283-289

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抄録

【目的】摂食・嚥下の過程における口唇閉鎖の重要性については広く認識されているが,口唇が開放された状態で嚥下が行われる場合に,嚥下動態がどのように変化するかについては未解明な部分が多い.本研究は,口唇の開放・閉鎖の状態の違いによる嚥下動態の変化の様相を調査するための第一段階として,水を用いて至適1 回嚥下量を測定し比較することを目的とした.さらに,口唇開放時でも口唇間に物を挟むことにより,閉鎖時と同様の至適1 回嚥下量を得ることができるかどうかを調査することも,あわせて目的とした.

【対象と方法】対象は,摂食・嚥下機能に問題のない健常成人22 名(男性12 名,女性10 名,平均年齢21.9±2.7 歳)とした.被験者の体幹姿勢は仰臥位,頭頸部姿勢は中間位とした.口唇の開閉状態は,指示閉鎖,小開放(口唇にロールワッテを横に挟み保持した状態),大開放(ロールワッテを縦に挟み保持した状態),指示開放(ロールワッテを挟まず口唇を約1 cm 開放した状態)の4 条件をランダムに設定し,各条件における水の至適1 回嚥下量を測定し比較した.測定に際し,被験者に空嚥下を行わせた後,検者がシリンジを用いて口腔底に水10 ml を注入し,被験者には1 回で楽に飲める量を飲むように指示した.至適1 回嚥下量は,嚥下後に口腔内に残留した水を紙コップに吐き出させ,その重量を電子天秤で測定し,注入した量から差し引くことにより求めた.

【結果】至適1 回嚥下量は,指示閉鎖が9.38±1.75 ml,小開放が9.39±1.87 ml,大開放が9.28±1.73 ml,指示開放が8.59±2.13 ml であった.至適1 回嚥下量は指示開放において,指示閉鎖,小開放,大開放と比べて有意に小さかった(p<0.01).

【結論】口唇を開放すると至適1 回嚥下量は小さくなるが,口唇開放時でも,間隙にロールワッテを挟むことで,口唇閉鎖時と同程度の嚥下量を得ることが可能であった.

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© 2012 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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