2014 年 18 巻 3 号 p. 221-228
【背景と目的】口内炎が多発するがんや造血幹細胞移植時の患者等では,感染管理の面から口腔粘膜清掃が重要であり,その際には,口腔用スポンジブラシ(Sponge Brush,以下SB)が使用される.SB は衛生上,使い捨てとして販売されているが,現場では複数回使用する場合が見受けられる.本研究では,SB 使用後の付着菌数を明らかにすること,およびSB の洗浄・乾燥や素材の違いが付着菌数におよぼす影響を細菌学的に評価し,細菌汚染の状態を明確にすることを目的とした.
【材料と方法】① SB 1 回使用後の付着菌数の評価: 健康人(9 名,20 ~ 50 代)にSB を2 本ずつ配布し,同時期に口腔粘膜を中心に1 分間拭わせた.拭った後のSB の付着菌数(Log CFU)は,培養法にて評価した.
② 使用後のSB を回収し,SB 付着菌数におよぼす洗浄(分注水,流水),水切りの有無,スポンジのキメの粗さおよび乾燥時間の影響を比較検討した.
③ 使用後のSB の洗浄・乾燥後に検出される細菌種を分離し,グラム染色性や溶血性の確認および形態学的観察を行った.
【結果】9 名から採取した1 本目,2 本目のSB 使用直後の付着菌数(Log CFU)の中央値はそれぞれ8.09 ±0.55(最小7.75 ~最大9.29),8.54 ± 0.52(最小7.86 ~最大9.34)であり,同時期に採取した付着菌数に有意差は認められず,個々の大きなバラツキはみられなかった.
使用後のSB の付着菌数は,分注水よりも流水での洗浄において,また水切りの有無では,水切り有りにおいて,顕著な低下が認められた.スポンジのキメの粗さの違いについては,洗浄後および乾燥後の細菌数の低下に影響しなかった.さらに,SB を37℃下で72 時間乾燥させた場合にも生菌は検出され,分離された細菌種の主体は,グラム陰性1 菌種を除いて,他はすべてグラム陽性の球菌・球桿菌・桿菌であった.
【結論】SB 使用後の付着菌数は,洗浄や保管条件により低下するが,完全に除去することは困難であった.SB の再使用は感染リスクを高めることから,使い捨てを徹底することが重要である.