1998 年 2 巻 1 号 p. 49-54
高齢者にとって呼吸を含めた全身状態の管理は,食事など日常生活の様々な状況において重要である.特に寝たきりで生活している要介護高齢者においては,摂食時にむせや誤嚥などにより,呼吸や循環動態に過剰な負荷が引き起こされる危険性があり,その結果動脈血酸素飽和度(SpO2)や脈拍数(PR)の変動として現れる場合がある,そこで今回,某特別養護老人ホームに入居中の,脳動脈瘤,高血圧症,老人性痴呆を主疾患とする81才の女性1名について,摂食行動が動脈血酸素飽和度,脈拍数に及ぼす影響について,調査,検討を行った.測定内容は,パルスオキシメータを用いて,SpO2,PRを,ベッド上での安静時と,それに続く摂食時,後日の通常の摂食時と摂食指導下での摂食時の4設定で測定を行った.安静時と比較して,全ての摂食時において,SpO2は有意に低い値を示した(p<0.01).座位での摂食時において,頻繁なむせとせき込みがみられたため,空嚥下,頸部角度の調節,一口量の調節等の指導を行った.その結果,SpO2が85%以下となったのは,測定値中28.2%の割合であったが,摂食指導後には,7.5%に減少した.寝たきりの要介護高齢者では,摂食行動に伴う運動負荷や嚥下困難によっ.てSpO2や脈拍数の変動を引き起こす場合があるが,摂食指導を行うことにより,過剰な運動負荷と嚥下困難を軽減し,全身の循環動態が改善される可能性が示唆された.