日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
増粘多糖類の物性特徴を活かした嚥下困難者に適した主食(粥)の調製
―ペースト状の粥を用いた検討―
濟渡 久美朝倉 徹
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2016 年 20 巻 1 号 p. 11-22

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抄録

【背景・目的】摂食嚥下困難者にとって適した食品に必要な基本要素として,誤嚥に対して安全な物性が重要視されている.2009 年,厚生労働省から特別用途食品制度「えん下困難者用食品許可基準」により安全に経口摂取するための「食品の物性」と「嚥下障害者に適する物性」との関係が明確化された.適した物性の発現には増粘多糖類すなわち,増粘剤やゲル化剤としての性質を有する食品多糖類が使用されることが多い.そこで本研究では,嚥下困難者に適した主食(ペースト状の粥)について,代表的な増粘多糖類,デンプン分解酵素,ゲル化促進食材を使用して,許可基準範囲の物性を効果的に発現し,臨床的に応用できる手法を明らかにすることを目的とした.

【方法】材料は,食材として精白米,増粘多糖類としてグルコマンナン,カラギーナン(κ-,ι-),キサンタンガム,ジェランガム,ローカストビーンガムの6 種類,デンプン分解酵素としてアミラーゼ,ゲル化促進食材として脱脂粉乳を用いた.方法は,溶解した増粘多糖類と粥を撹拌・混合し,シャーレに充填後,試料内温度を20±2℃に保って30 分間静置し,レオメーターで得られたTPA 曲線からかたさ,付着性,凝集性を測定し,あわせて離水率を測定した.

【結果】白粥に増粘多糖類を単独で用いた場合,グルコマンナン,ローカストビーンガム,キサンタンガムを用いたものは,許可基準の範囲外であった.ジェランガム,カラギーナン(κ-,ι-)を用いたものはゲル化し,付着性が基準値の上限を超えたため,許可基準Ⅰを満たすものがなかった.白粥にアミラーゼを作用させることにより,付着性が低下した.いっぽう,脱脂粉乳粥と混合すると,付着性が上昇して凝集性が低下した.さらに,アミラーゼを作用させると,付着性が低下し,κ-カラギーナンを用いたゲルは効果が高く許可基準Ⅰを満たした.ジェランガムを用いたゲルは離水したが,ι-カラギーナン,キサンタンガムとの組み合わせで離水が軽減され,許可基準Ⅰを満たすものがあった.

【結論】増粘多糖類の特性を活かして,許可基準に当てはまる適切な物性が得られた.付着性の上昇の抑制には,分解酵素(アミラーゼ)によるデンプン鎖の分解が有効であった.脱脂粉乳による陽イオンの供給によって架橋を形成したことが,ゲル化の促進につながった.増粘多糖類を組み合わせることにより,離水軽減に効果があった.

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© 2016 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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