2017 年 21 巻 2 号 p. 106-111
【はじめに】終末期では,経口摂取が困難となった患者に対する食事支援の重要性が認識されてきており,患者の状態に合わせた取り組みが行われている.今回われわれは,肺がん末期で経口摂取が困難となり,希望していた親族との会食をあきらめていた患者に対して,食事支援を行った.その結果,患者が支援をきっかけに意欲を取り戻し,希望を叶えることができた症例を経験したので,その取り組み内容について報告する.
【症例と経過】対象は83 歳女性.診断名は右肺がんであった.在宅療養中に親族との会食を予定していたが,疼痛の増悪と呼吸苦の悪化に伴い,経口摂取が困難な状況になり,当院入院となった.入院後は,疼痛および呼吸苦が緩和され,第10 病日目に退院調整開始となった.しかし,第12 病日には胸水悪化による呼吸苦が再燃し,退院延期となった.全身状態の悪化に伴って食事摂取量が減少し,意欲が減退していく中で,患者からは希望していた親族との会食をあきらめた様子がうかがえた.第15 病日目,管理栄養士が食事支援方法を検討するために介入し,摂食状況を確認した.その結果,食事摂取量の減少は,嚥下機能の問題ではなく,食事中の呼吸状態の悪化にあると推察された.そこで,咀嚼の負担軽減を目的に食形態を見直し,嚥下調整食を提供した.これにより,食事中の呼吸困難感が軽減され,意欲の回復傾向がみられた.これを機に,家族と医療スタッフは外泊に向け調整を行った.そして,第18 病日には外泊し,親族との会食が実現した.
【考察】今回の取り組みが功を奏した背景には,食事中の呼吸苦が原因であると推測できたことや,咀嚼の負荷を軽減するために提供した嚥下調整食が患者に受け入れられたことが挙げられる.さらに,チームが情報を共有し,迅速に外泊が実施できるように準備を整えることができたことが,大きく影響していると考えられる.今回の症例を通して,終末期患者の食べることに対する支援の重要性をあらためて認識できた.今後,チームの連携を活かして早期介入を進め,患者の状態にあわせた食形態の提供だけでなく,患者の食に対する思いも支援していきたい.