日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
21 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 坂口 紅美子, 原 修一
    2017 年 21 巻 2 号 p. 61-70
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2020/04/19
    ジャーナル フリー

    【目的】高齢者は加齢性変化により,摂食嚥下障害を来たしやすい.今回,頚部筋力と摂食嚥下機能の関連を調査した.さらに,握力測定,構音検査,ADL 評価を行い,間接的嚥下評価への汎用性を検討した.

    【方法】対象は,健常群8 名と入院群26 名とし,入院群は,2014 年1 月から11 月までにA 病院に入院し,言語聴覚療法の処方があった70 歳以上90 歳未満の検査方法が理解可能であった者とした.評価方法は,頚部筋力測定,反復唾液嚥下テスト(RSST),改訂水飲みテスト(MWST),関連項目(年齢,性別,疾患名)の情報収集を行った.入院群のみ,握力測定,ADL 評価(Barthel Index:BI),構音検査(oral diadochokinesis:OD)も実施した.統計解析は,健常群にて級内相関係数,入院群において,偏相関分析,重回帰分析を行った.また,両群においてSpearman の順位相関係数を決定した.健常群と入院群内で嚥下障害の有無による群分けを行い,群間比較を行った.

    【結果】健常群におけるICC は0.921 であった.入院群の相関分析において頚部筋力すべてと相関関係が認められた項目は,年齢,MWST,左右握力であった.偏相関分析では,握力以外は相関分析と同様の結果となった.重回帰分析では,頚部筋力とOD(/ta/)を独立変数とする回帰式が得られた.群間比較では,入院群の嚥下障害有群で,すべての項目において有意に低い値となった.

    【考察】高齢者の摂食嚥下機能と頚部筋力に関連があることが示唆された.全身の筋力が低下している場合,頚部筋力,摂食嚥下機能も低下している可能性が考えられた.頚部筋力の評価は,間接的嚥下評価の一側面になりうる可能性が示唆された.

  • 畦西 克己, 堀 夏海, 上野山 あつこ, 吉村 美紀, 北元 憲利
    2017 年 21 巻 2 号 p. 71-82
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2020/04/19
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究では,食肉の形状を変えることなく軟化させる方法について,加熱方法と食品品質改良剤の浸漬による軟化処理により,物性・嗜好性・咀嚼性の点から検討した.

    【方法】試料には豚ヒレ肉を半解凍で幅2 cm,高さ1 cm の直方体に形成後,蒸留水および3% 食品品質改良剤溶液(スベラカーゼミート®((株)フードケア))に15 時間浸漬し,普通鍋は10 分間,圧力鍋は8 分間加熱を行なった.試料の浸漬前後の重量,加熱調理後の重量より,重量増加率および重量減少率を算出した.レオメーターを用い,貫入応力,貫入エネルギーおよび硬さ,凝集性,付着性を求めた.また,5 段階採点法で,8 項目について,若年者と高齢者を対象として官能評価を行なった.筋電図は若年者を対象とし,舌骨上筋群(開口筋)と咬筋(閉口筋)を測定し,咀嚼開始から第一嚥下までと第一嚥下以降についての解析を行った.

    【結果】軟化処理試料は軟化未処理試料と比較して,重量減少率が低く,貫入応力および貫入エネルギーが小さいことがわかった.また,テクスチャー特性の硬さは軟らかくなった.官能評価では,若年者および高齢者とも,軟化処理試料は軟らかく,まとまりやすく,噛みやすく,飲み込みやすく,おいしい,という回答を得た.筋電図測定では,咀嚼開始から第一嚥下までは,咀嚼回数が減少し,活動時間および咀嚼活動時間が短縮し,咀嚼活動量も低下した.また,第一嚥下以降は,食肉のまとまりがよいほど咀嚼時間が短縮した.加熱方法の比較では,圧力鍋加熱試料は普通鍋加熱試料より,重量減少率は高く,貫入応力,貫入エネルギーおよびテクスチャー特性の硬さが小さくなることがわかった.さらに,圧力鍋加熱・軟化未処理試料では,凝集性の著しい低下が認められた.

    【結論】食肉に市販食品品質改良剤を用いることにより,酵素および保水性の向上による軟化が起こり,咀嚼障害のある高齢者に有効であり,食べやすさに繋がることを明らかにした.また,圧力鍋加熱は,普通鍋加熱より貫入応力・エネルギー,硬さが低くなる傾向を示した.

  • 森澤 広行, 香川 幸次郎
    2017 年 21 巻 2 号 p. 83-91
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2020/04/19
    ジャーナル フリー

    【目的】要介護高齢者の増加とともに,摂食嚥下障害を抱える在宅虚弱高齢者のQOL が注目されてきている.これまでの研究では,摂食嚥下障害が要介護高齢者のQOL を低下させることが指摘されているが,QOL を測定する尺度は一般の人を対象とした尺度が用いられているのみである.しかし,摂食嚥下障害に特化したQOL を測定するためには,疾患特異的QOL 尺度を用いる必要がある.また,どのような症状がQOL に関与するのかについても明らかになっておらず,介入の指針が示されていない.そのため,本研究では在宅要介護高齢者における摂食嚥下障害と疾患特異的QOL との関連を明らかにすることを目的とした.

    【方法】通所リハビリテーションを利用している要支援1から要介護2までの高齢者64名(平均年齢79.3±7.3 歳)を対象とした.調査は,基本属性,食事に関する事項,ADL, DRACE, SWAL-QOL・SWAL-CARE,生活満足度について,面接調査法を用い実施した.誤嚥リスクの有無で2 群分けを行い,SWAL-QOL の結果を検討した.

    【結果】誤嚥リスクは対象者の45.3% に存在することが確認された.誤嚥リスクの有無によるSWAL-QOLの下位項目の順位に大きな差は認めなかった.しかし,誤嚥リスクを有する群は,SWAL-QOL の負担,欲求,恐怖感,心の健康,コミュニケーション,疲労感においてQOL が有意に低下することが確認され,さらに唾液や口腔,咽頭などの症状が出現するほどQOL が低下することが確認された.

    【結論】本研究では,1.本研究対象者の45.31% に誤嚥リスクが存在すること,2.SWAL-QOL の下位10項目の順位について,リスクの有無による順位に大きな差は認められないこと,3.誤嚥リスクがある群において,疾患特異的QOL が低下すること,4.唾液や口腔,咽頭などの症状がQOL を低下させること,が明らかになった.QOL 維持,向上を図るためには,摂食嚥下機能へのアプローチが欠かせないと考えられる.

短報
  • 手塚 文栄, 中村 勇, 星出 てい子, 服部 沙穂里, 高木 伸子
    2017 年 21 巻 2 号 p. 92-98
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2020/04/19
    ジャーナル フリー

    平成24 年度,A 県下の知的障害特別支援学校で窒息死亡事故が起こった.文部科学省から通知が出され,「食べる機能に障害がある児童生徒は,経験のある教員や医師・外部専門家に相談することが望ましい」とされた.

    事故後,筆者らは外部専門家として窒息事故予防事業へ参加した.その際学童期の知的障害児の摂食機能や窒息事故について文献を探したが,ほとんど発見できなかった.知的障害児の摂食機能実態や窒息リスクについては,推測はできるが裏付けがない状況だと判断し,向井らの窒息事故調査を参考に,児童生徒の摂食機能に関するアンケート調査を担任に対して行った.

    調査対象は,知的障害特別支援学校2 校の児童生徒489 名.調査の結果,14 名が窒息事故を起こしかけた経験をもっていた.この群をニアミス群とし,経験をもたない群を対照群とした.11 の質問項目についてカイ二乗検定を行ったところ,7 項目に有意差を認め,さらに2 項ロジスティック回帰分析後にROC曲線を描きカットオフ値を検討したところ,「ほとんど噛まずにのみこむ」「口に詰めこんで食べる」「ゴクンとするとき舌がでる」の3 項目合計が特に高い値を示し,窒息リスクの高い知的障害児童生徒の摂食機能関連要因であることが示唆された.また,ニアミス群14 名のうち9 名がダウン症児であった.

    児童生徒の摂食嚥下機能障害をスクリーニングする方法があれば,障害児教育の専門家である教員と摂食機能に詳しい専門家で教育の場にふさわしい対応を考え,根拠のある窒息事故予防策を立てることができる.今後,本調査結果をスクリーニング項目として生かすには,窒息事故のレベルの客観化,妥当性の検討,追調査,3 項目のスクーリング試行などが必要と考える.

  • 塚谷 才明, 小林 沙織, 平岡 恵子, 田中 妙子, 金原 寛子, 南田 菜穂, 山本 美穂, 酒井 尚美
    2017 年 21 巻 2 号 p. 99-105
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2020/04/19
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下障害の合併症の一つに窒息があるが,これまで院内発生例に関する報告は少ない.急性期病院における窒息事例を解析検討することで,今後のリスク管理に生かせる因子を明らかにする.

    【対象と方法】20xx 年4 月から3 年間,当院の入院患者で医療安全部にレベル3b 以上の窒息事例として報告があった例を診療録,看護記録より後方視的に検討した.対照群は同期間の入院患者で平均年齢,入院科を窒息群と合致させ,他は無作為に抽出した130 名とした.

    【結果】窒息事例は5 例,入院科は整形外科2 例,内科3 例であった.年齢分布は68 歳から94 歳,平均83.4 歳であった.窒息は既往症に嚥下機能低下をきたす可能性のある疾患を有し(5 例中4 例),入院前の食事摂取が自立していた患者(全例)で起こっていた.ADL(歩行,排泄,日常生活の自立度)は自立と介助の境界レベルの患者が多かった.窒息イベントは入院早期に起こり(入院後平均9.2 日),発生時の食事形態は常食もしくは軟菜であり,嚥下調整食で窒息した例はなかった.窒息群では5例中4例(80%)で利尿薬の内服があり,対照群での内服割合130 例中31 例(23.8%)より有意に高かった.この期間の65 歳以上に限定した入院患者数は11,381 名で,65 歳以上の入院患者が院内で窒息を起こす確率は0.04%,おおよそ2,500 人に1 人の割合であった.

    【結論】院内発生の窒息事例は経口摂取自立者で,既往に嚥下障害リスクを有し,常食もしくはそれに近い食形態の物を食べている,入院早期の高齢者患者に起こりやすい.

症例報告
  • 岸 希代美, 杉下 周平, 橋本 みさ子, 松井 利浩
    2017 年 21 巻 2 号 p. 106-111
    発行日: 2017/08/31
    公開日: 2020/04/19
    ジャーナル フリー

    【はじめに】終末期では,経口摂取が困難となった患者に対する食事支援の重要性が認識されてきており,患者の状態に合わせた取り組みが行われている.今回われわれは,肺がん末期で経口摂取が困難となり,希望していた親族との会食をあきらめていた患者に対して,食事支援を行った.その結果,患者が支援をきっかけに意欲を取り戻し,希望を叶えることができた症例を経験したので,その取り組み内容について報告する.

    【症例と経過】対象は83 歳女性.診断名は右肺がんであった.在宅療養中に親族との会食を予定していたが,疼痛の増悪と呼吸苦の悪化に伴い,経口摂取が困難な状況になり,当院入院となった.入院後は,疼痛および呼吸苦が緩和され,第10 病日目に退院調整開始となった.しかし,第12 病日には胸水悪化による呼吸苦が再燃し,退院延期となった.全身状態の悪化に伴って食事摂取量が減少し,意欲が減退していく中で,患者からは希望していた親族との会食をあきらめた様子がうかがえた.第15 病日目,管理栄養士が食事支援方法を検討するために介入し,摂食状況を確認した.その結果,食事摂取量の減少は,嚥下機能の問題ではなく,食事中の呼吸状態の悪化にあると推察された.そこで,咀嚼の負担軽減を目的に食形態を見直し,嚥下調整食を提供した.これにより,食事中の呼吸困難感が軽減され,意欲の回復傾向がみられた.これを機に,家族と医療スタッフは外泊に向け調整を行った.そして,第18 病日には外泊し,親族との会食が実現した.

    【考察】今回の取り組みが功を奏した背景には,食事中の呼吸苦が原因であると推測できたことや,咀嚼の負荷を軽減するために提供した嚥下調整食が患者に受け入れられたことが挙げられる.さらに,チームが情報を共有し,迅速に外泊が実施できるように準備を整えることができたことが,大きく影響していると考えられる.今回の症例を通して,終末期患者の食べることに対する支援の重要性をあらためて認識できた.今後,チームの連携を活かして早期介入を進め,患者の状態にあわせた食形態の提供だけでなく,患者の食に対する思いも支援していきたい.

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