日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
東日本大震災における栄養士から見た口腔保健問題
笠岡(坪山) 宜代近藤 明子原田 萌香上田 咲子須藤 紀子金谷 泰宏下浦 佳之中久木 康一
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キーワード: 災害, 嚥下, 咀嚼, 口内炎, 栄養
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2017 年 21 巻 3 号 p. 191-199

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抄録

災害時における口腔保健問題の具体的事例について明らかにするため,東日本大震災後に日本栄養士会から被災地へ派遣された災害支援管理栄養士・栄養士(以下,支援栄養士)の活動報告書(195 名,延べ602 日分)をもとに,口腔保健に関する情報を抽出し,問題点を整理した.

その方法として,活動報告書内の口腔保健に関するキーワードをテキスト検索した.検索キーワードは,避難所歯科口腔保健標準アセスメント票等をもとに選定した.検索されたテキストから口腔保健問題に関連する新たなキーワードが得られた場合には,新たにキーワードを追加して2 次検索を行った.抽出されたテキストをKJ 法によりカテゴリー化し,分析した.

被災地の口腔保健問題は,「飲み込めない」「噛めない」「環境の悪化」「口腔状況の悪化」に分類された.「飲み込めない」問題には,「嚥下が困難で流動食,とろみ剤等食事形態の工夫が必要」「むせでとろみ剤等が必要」「誤嚥」が含まれ,軟らかい飲み込みやすい食事が要望されていた.「噛めない」問題には,「咀嚼力が弱く,きざみ食等が必要」「義歯の流失・不具合により食事量が減少」等が含まれていた.「環境の悪化」には,「菓子の多食.齲蝕・肥満等の増加」「歯磨き等ができない」が含まれ,避難所での食事状況も口腔内の環境に影響している可能性が示唆された.「口腔状況の悪化」には「口内炎の発生」,その他に「痰がからむ,口腔内乾燥」が含まれた.

災害時,食べることを支えるためには,口腔内環境を整備する体制が必要であることが示唆された.今後,支援栄養士のみならず,被災者の健康支援に関わる専門職は,口腔保健の重要性や歯科分野との連携を意識する必要があることが明らかとなった.

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© 2017 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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