日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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症例報告
輪状甲状間膜切開キットの挿入によって嚥下機能が低下した1症例
杉山 明宏佐藤 賢
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2019 年 23 巻 1 号 p. 30-36

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抄録

【緒言】輪状甲状間膜切開キット(以下,キット)の挿入によって嚥下機能が低下した症例を報告する.

【症例】83 歳男性,不整脈の精査で当院へ入院した.

【経過】8 病日に冠動脈大動脈バイパス移植術を施行し,10 病日から全粥食を自力摂取した.だが,11 病日に心室頻拍が頻発して,意識障害と呼吸困難が出現した.排痰目的でキットを挿入したが,直後から咳嗽が頻回となり,気管カニューレから食物残渣が吸引された.12 病日に実施した言語聴覚士の嚥下評価で機能低下を認めた.さらに,胸部X 線検査と採血検査から,誤嚥性肺炎と診断し禁食とした.18 病日の嚥下造影検査(以下,VF)では咽頭期の喉頭挙上運動が低下し,喉頭蓋谷と梨状陥凹に被検食が残留した.被検食は一度の嚥下で飲み込めず複数回の嚥下を繰り返し,一部が喉頭侵入した.VF 後,キットの留置が嚥下機能に影響を与えたと考えて抜去した.23 病日のVF では喉頭の前上方運動が早まり,残留は軽減した.被検食は一度の嚥下で摂取可能となった.全粥食の再開後は誤嚥を認めず,全身状態が改善して31 病日に自宅退院した.

【考察】キットの挿入時は抜去後と比較して喉頭挙上距離が0.41 椎体分短縮し,喉頭挙上遅延時間が0.06秒延長して喉頭侵入しやすい状態であった.第二,第三気管軟骨を小切開する気管切開術では,舌骨,喉頭の挙上運動制限による嚥下機能の低下が指摘されている.この挙上制限は,キットの挿入でも同様に生じたと考えられた.輪状甲状間膜切開法は気管切開術に比べて低侵襲で迅速な気道確保が得られ,挿入後のADL 低下は限局的と考えられてきた.だが,輪状甲状間膜切開法を介したキットの挿入は,比較的簡便な手技ながらも重篤な嚥下障害を生じうる可能性がある.また,嚥下障害の悪化を認めた場合は,速やかにキットを抜去する必要があり,施行に際しては厳正な適応判断が必要と考えられた.

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© 2019 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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