日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
23 巻, 1 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著
  • 赤澤 薫, 柏原 健一
    2019 年23 巻1 号 p. 3-7
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/31
    ジャーナル フリー

    誤嚥性肺炎と診断されて入院し,摂食嚥下リハビリテーション開始時には経口摂取不能であったが,入院前には3食経口摂取であったパーキンソン病(Parkinson's disease: PD)37 例について,3 食経口摂取再開に関連する要因を検討した.退院時に3 食経口摂取となった17 例はそうでない20 例に比べ,年齢が若く,Hoehn-Yahr 重症度が低値,退院時の運動FIM,入院時の認知FIM,退院時の認知FIM,運動FIM 効率が高値であった.また,嚥下機能と運動機能の改善度には相関関係を認めた.誤嚥性肺炎後のPD 患者でも,認知機能が高い患者では,運動機能の改善と経口摂取の再開に至りやすいと考えた.

  • 宮上 光祐, 星 達也, 福岡 宏之, 戸原 玄, 阿部 仁子
    2019 年23 巻1 号 p. 8-18
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/31
    ジャーナル フリー

    【目的】脳血管障害はしばしば嚥下障害を合併し誤嚥性肺炎を発生するが,その頻度については脳卒中の急性期に多く,回復期リハビリテーション病院入院中の経管栄養例の報告は少ない.誤嚥性肺炎の発症要因についても,いまだ十分解明されていない.今回,これらの発生率と発生要因を明らかにすることを目的とした.

    【方法】発症後1~2 カ月後に回復期リハビリテーション病院に入院した経管栄養を行っている脳血管障害患者158 例を対象として,誤嚥性肺炎の発生率と発症要因を検討した.誤嚥性肺炎発症群と非発症群の2群について,発生要因として年齢,性別,発生部位,嚥下障害の重症度,栄養状態のalbumin (Alb),total protein (TP),body mass index (BMI),入院時のFIM, VF・VE 施行との関連性について検討した.

    【結果】経管栄養を行っている脳血管障害患者158 例中22 例(13.9%)に誤嚥性肺炎を認めた.肺炎発症群と非発症群の群間比較では,重症の嚥下障害,発生部位 (脳幹・小脳),男性,認知FIM 利得で有意差を認めた (p<0.05).栄養状態 (BMI, TP, Alb),意識障害,回復期入院前の肺炎や合併症,入院時FIM では両群間に有意差を認めなかった.肺炎発症の有無を目的変数,各発生要因を説明変数としてロジスティック回帰分析を行った結果では,肺炎発症の要因として,重症の嚥下障害のdysphagia severity scale (DSS) 1 (OR [odds ratio] 8.747, p=0.001),発生部位の脳幹・小脳 (OR 4.859, p=0.01),男性 (OR 5.681,p=0.006),年齢 (OR 0.941, p=0.043) が要因として抽出された.

    【結論】回復期脳血管障害経管栄養例の13.9%に誤嚥性肺炎を発症した.肺炎発症の要因として,脳幹・小脳病変,重症の嚥下障害,男性,高齢者が重要であった.

  • 渡邊 英美, 山縣 誉志江, 小切間 美保, 栢下 淳
    2019 年23 巻1 号 p. 19-29
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/31
    ジャーナル フリー

    【目的】学会分類2013(とろみ)は3段階に分類され,各段階のとろみの程度について文言による性状の説明だけではなく,ずり速度50 s-1 における粘度および簡易粘度評価方法であるLine Spread Test(LST)の値も示されている.しかし,LST では異なる種類のとろみ調整食品を用いてとろみづけした試料や,とろみつき栄養剤を評価した場合には,口腔におけるとろみの官能評価と相関しないことが報告されている.LST 以外にもロート法やシリンジ法が簡易粘度評価方法として報告されており,これらのうちいずれがとろみの評価方法として適当であるかを比較検討した.

    【方法】キサンタンガム系 (X),グアーガム系 (G),デンプン系 (S) のとろみ調整食品を用いてずり速度50 s-1 における粘度が50, 150, 300, 500 mPa・s 程度になるように市販の果汁20% オレンジジュースにとろみづけしたものを試料とした.LST は学会分類2013 に示された方法に従って実施し,測定板中央からの試料の到達距離を読み取った.ロート法は,ロートに注入した 30 mL の試料がロートから流出する時間をストップウォッチで計測した.シリンジ法は,筒先を下にして指でふさぎ 10 mL の目盛まで試料を入れ,指を外して試料を流出させて10 秒後の試料の残存量を読み取った.簡易評価の妥当性を検討するためにずり速度1, 5, 10, 50, 100, 500, 1,000 s-1 における粘度測定,および,口腔内での官能評価を実施した.

    【結果】LST では,同じとろみ調整食品を用いて粘度を変えて調製した試料を比較した場合には,粘度が高いほど到達距離が短かった.しかし,高粘度の G の試料は,低粘度の X や S の試料より到達距離が長かった.ロート法では,とろみ調整食品の種類によらず粘度が高いほど流出時間が長くなった.シリンジ法の場合,粘度が高いほど残存量が多い傾向がみられたが,高粘度のGの試料のほうが低粘度のXの試料よりも残存量が少なくなることがあった.

    【結論】本研究で検討した試料に対し,ロート法がとろみの簡易評価方法として適していた.

症例報告
  • 杉山 明宏, 佐藤 賢
    2019 年23 巻1 号 p. 30-36
    発行日: 2019/04/30
    公開日: 2019/08/31
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    【緒言】輪状甲状間膜切開キット(以下,キット)の挿入によって嚥下機能が低下した症例を報告する.

    【症例】83 歳男性,不整脈の精査で当院へ入院した.

    【経過】8 病日に冠動脈大動脈バイパス移植術を施行し,10 病日から全粥食を自力摂取した.だが,11 病日に心室頻拍が頻発して,意識障害と呼吸困難が出現した.排痰目的でキットを挿入したが,直後から咳嗽が頻回となり,気管カニューレから食物残渣が吸引された.12 病日に実施した言語聴覚士の嚥下評価で機能低下を認めた.さらに,胸部X 線検査と採血検査から,誤嚥性肺炎と診断し禁食とした.18 病日の嚥下造影検査(以下,VF)では咽頭期の喉頭挙上運動が低下し,喉頭蓋谷と梨状陥凹に被検食が残留した.被検食は一度の嚥下で飲み込めず複数回の嚥下を繰り返し,一部が喉頭侵入した.VF 後,キットの留置が嚥下機能に影響を与えたと考えて抜去した.23 病日のVF では喉頭の前上方運動が早まり,残留は軽減した.被検食は一度の嚥下で摂取可能となった.全粥食の再開後は誤嚥を認めず,全身状態が改善して31 病日に自宅退院した.

    【考察】キットの挿入時は抜去後と比較して喉頭挙上距離が0.41 椎体分短縮し,喉頭挙上遅延時間が0.06秒延長して喉頭侵入しやすい状態であった.第二,第三気管軟骨を小切開する気管切開術では,舌骨,喉頭の挙上運動制限による嚥下機能の低下が指摘されている.この挙上制限は,キットの挿入でも同様に生じたと考えられた.輪状甲状間膜切開法は気管切開術に比べて低侵襲で迅速な気道確保が得られ,挿入後のADL 低下は限局的と考えられてきた.だが,輪状甲状間膜切開法を介したキットの挿入は,比較的簡便な手技ながらも重篤な嚥下障害を生じうる可能性がある.また,嚥下障害の悪化を認めた場合は,速やかにキットを抜去する必要があり,施行に際しては厳正な適応判断が必要と考えられた.

臨床ヒント
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