日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
症例報告
光重合型リライン材で作製したバルブにより口蓋癌術後の鼻咽腔閉鎖機能を改善した2 症例
中村 祐己杉田 英之川邊 睦記高岡 一樹本田 公亮岸本 裕充
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 24 巻 3 号 p. 273-280

詳細
抄録

口蓋癌切除後の鼻咽腔閉鎖不全による嚥下障害,構音障害から,QOL が大きく低下した2 症例に対し,光重合型リライン材で作製したバルブにより鼻咽腔閉鎖機能を改善し,良好な結果を得たので報告する.

【症例1】65 歳,男性.口蓋癌(T4aN2bM0,stage Ⅳ A)に対して,X-1 年6 月に他院にて口蓋亜全摘,左前腕皮弁による口蓋再建術を施行.食事時間の延長と会話困難を主訴にX 年8 月に当科を受診.上顎は口蓋の大部分が切除され,皮弁は切除された面積の前方約1/2 を被覆するのみで,口腔と鼻腔は広範囲で交通していた.口蓋形態の回復と鼻咽腔閉鎖機能の改善を目的に顎義歯を作製した.顎義歯の床後縁に光重合型リライン材を用いて,直接法でバルブを作製した.顎義歯装着により鼻咽腔閉鎖が可能となった.咀嚼や食塊の送り込みが改善し,食事時間が短縮した.構音は発語明瞭度検査にて,顎義歯なしで30%,顎義歯装着で67% と改善を認めた.

【症例2】67 歳,女性.右側頬粘膜癌(X-6 年5 月),右側舌癌(X-1 年3 月),右側軟口蓋癌(X-1 年12 月)の既往あり.X 年8 月,右側頬粘膜癌(T1N0M0,stage Ⅰ)に対して右側口峡部癌切除術を施行.主訴は,食事の鼻腔への流入や逆流,発音不明瞭であった.硬口蓋後方の鼻腔と交通する残遺孔と上顎右側軟口蓋から口峡にかけての瘢痕拘縮による鼻咽腔閉鎖不全が原因と考えられた.顎義歯による残遺孔の閉鎖に加えて,鼻咽腔閉鎖不全に対し,顎義歯床右側後縁に光重合型リライン材を用いてバルブを作製し,鼻咽腔閉鎖機能の改善を図った.顎義歯装着により嚥下造影検査にて液体,固形物とも咽頭から鼻腔への逆流と残遺孔から鼻腔への流入が減少し,構音は発語明瞭度検査にて顎義歯なしで47%,顎義歯装着で91% と改善を認めた.

いずれの症例も主訴が改善し,QOL が向上した.

著者関連情報
© 2020 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
前の記事
feedback
Top