2021 年 25 巻 3 号 p. 259-266
【緒言】顎外固定装置AGOキャップ™(以下,AGOキャップ)装着後の直接訓練で経口摂取が可能となった症例を報告する.
【症例】80 歳代の女性,アルツハイマー型認知症,間質性肺炎で入院した.
【経過】:2 病日に間質性肺炎が増悪して意識状態が低下した.3 病日に言語聴覚士が介入し,嚥下機能を評価した.全身状態が不安定で長期臥床となり,喀痰量の増加およびせん妄が出現した.安静中に顎関節脱臼を繰り返したが,自己整復可能であった.全身状態が改善し21 病日から直接訓練を開始した.28 病日に,自己整復困難な両側顎関節脱臼が出現した.症例は,徒手的整復後の再脱臼防止にオトガイ帽および顎関節装具を試みたが不適応であった.次いで,AGO キャップを装着した状態で直接訓練を施行した.装着後は頭頸部の前方突出および胸椎後弯が改善し,開口量および咀嚼は良好であった.未装着では開口量が乏しく咀嚼は緩徐で,徐々に上下切歯間距離が延長して再脱臼となった.AGO キャップを用いた嚥下訓練を継続し,38 病日に経口摂取が可能となった.退院調整を行っていたが,49 病日に全身状態が悪化して51 病日に死亡した.
【考察】AGOキャップは再脱臼防止に十分な固定力を有し,着脱が容易で装着中の不快感が少ないために,認知症患者に適していた.習慣性顎関節脱臼の症例に対しては,脱臼への恐怖心を払拭し,嚥下機能の獲得を補助する心理的効果が期待できた.AGO キャップ装着後の嚥下訓練は準備期から口腔期を中心とした嚥下機能の改善に寄与する可能性があり,顎関節脱臼以外の用途にも適用の拡大が期待された.