日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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症例報告
完全側臥位法により経口摂取を再開できた多系統萎縮症の1 症例
髙川 真由美合田 明生牧 貴紀中川 均肥後 和貴桂 純一柳橋 健
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2021 年 25 巻 3 号 p. 252-258

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抄録

【緒言】完全側臥位法を適用した摂食嚥下機能療法により経口摂取を再開できた多系統萎縮症の症例を報告する.

【症例】87 歳の男性で4 年前に多系統萎縮症と診断され,胃瘻が造設されている.入院時は自己摂取が可能であったが徐々に嚥下機能が低下し,入院後79 病日に経腸栄養となった.90 病日に嚥下評価・訓練の指示があり,従来法(仰臥位ベッドアップ30°,頸部屈曲位)を用いて訓練を開始した.93 病日に発熱を認めたため経口摂取訓練を中止し,経腸栄養の継続となった.その後,発熱はなく経過したが,本人や家族の強い希望により経口摂取の再開を検討した.213 病日に嚥下内視鏡検査を実施し,従来法と完全側臥位法の両条件とも,兵頭スコア7 点であった.固縮により頸部後屈が強いため,完全側臥位法の適用が望ましいと判断し,217 病日から言語聴覚士による完全側臥位法を適用した経口摂取訓練を開始した.その後,順調に経過し,254 病日に再度,嚥下内視鏡検査を実施したところ,兵頭スコア7 点と変化なく,生化学検査や画像診断から明らかな肺炎はなかった.278 病日に看護師による完全側臥位法での摂食介助に移行できた.

【考察】本症例には誤嚥症状が認められ,主疾患による生理的嚥下機能低下に加え,頸椎前弯固縮による喉頭挙上抑制という構造的要因が影響していると考えた.構造的要因に対しては従来法で代償困難なため,完全側臥位法の適用を考えた.完全側臥位法による2 カ月間の摂食嚥下訓練の結果,看護師の介助による日常的な経口摂取が可能となった.この要因として,完全側臥位法の適用により誰でも安全な摂食介助が可能であったことや,設定が簡便であるため,多忙な臨床現場においても言語聴覚士以外の職種に介助を移行しやすかったことが考えられる.まだ完全側臥位法の適用報告がない疾患も多いが,適用の際には明確な適応根拠のもとで,厳格な中止基準を設けて慎重に導入すべきである.

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© 2021 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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