日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
嚥下調整食提供に関するコストと課題
―全国病院アンケート調査報告―
上島 順子白井 祐佳前田 圭介江頭 文江堀越 由里鴨下 悟宇野 千晴工藤 美香清水 昭雄小城 明子園井 みか本川 佳子百崎 良栢下 淳
著者情報
ジャーナル フリー

2024 年 28 巻 2 号 p. 67-78

詳細
抄録

 【目的】嚥下調整食は標準化された食形態分類に準拠すると共に,栄養素を十分に含む必要がある.しかしながら,病院で提供されている嚥下調整食調理の現状と課題は明らかにされていない.これらを明らかにするために本研究を実施した.

 【方法】2023 年4 月から6 月に全国の栄養管理部門にWeb アンケート調査を依頼した.同意した施設代表者1 名が回答した.回答は単純集計し,外れ値は除外した.アンケートシステムの構築,実施,集計は,独立した第三者機関が行い,個人情報保護法に則って処理した.

 【結果】905 施設(回答率16.8%)から回答を得た.嚥下調整食は857 施設で提供されていた.嚥下調整食の調理に障壁を感じている施設は229/827 施設であり,「調理師のスキル」,「嚥下調整食に対する理解」,「調理時間の増加」が主な障壁であった.762/857 施設が,調理指標として日本摂食嚥下リハビリテーション学会の学会分類2013 または2021(以下学会分類)を用いていた.嚥下調整食の品質管理法は,「配膳前に目視で確認」が多かった(707/857 施設).1 食あたりのコスト(中央値)は普通食で764 円(Inter-Quartile Range: IQR 650–873),嚥下調整食で840 円(IQR 700–1,000)であった.嚥下調整食に市販食品を活用している施設は599/857 施設であった.市販食品を活用する理由は,「調理時間の短縮」502/599 施設,「物性が常に一定」433/857 施設,「人員コスト削減」298/599 施設が上位を占めていた.嚥下調整食の栄養価(中央値)は,学会分類コード1―4 の1 日エネルギー量は600–1,400 kcal,タンパク質量は20–60 g と特にコード1で少なかった.不足する栄養量を補うための手段は,経口栄養補助食品の併用(672/741 施設)が最も多かった.嚥下造影検査食は456/857 施設で提供されており,検査食の費用は栄養管理部門からの持ち出し(311/456 施設)が多かった.

 【結論】安全かつ栄養価の高い食事提供のためには,嚥下調整食への知識や調理スキルの向上,品質管理方法の標準化,および診療報酬への適切な反映が必要であることが示唆された.

著者関連情報
© 2024 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
次の記事
feedback
Top