2001 年 5 巻 2 号 p. 138-143
近年,摂食・嚥下機能障害に対して積極的に訓練が行われている.われわれは,簡便な用具を用いてベッドサイドで摂食・嚥下機能を簡便に評価できる簡易摂食・嚥下検査(以下,簡易検査)を開発した.本研究では,簡易検査を臨床でより適応させるため,脳出血後の1例の摂食・嚥下障害の訓練による改善過程について,客観的評価(舌・口唇・喉頭挙上運動の運動量と持続時間の測定)と,訓練者の主観的評価(運動能力)とを比較検討した.
症例は,54歳男性で,脳出血後に生じた摂食・嚥下機能障害に対して基礎的摂食・嚥下訓練(以下,訓練)を実施した.訓練は原則的に患者自身が毎日行い,訓練期間は約10か月であった.訓練の改善過程は,1か月1回,主観的評価と客観的評価を同時に実施した.
その結果,舌・口唇・喉頭挙上運動機能とも主観的評価結果よりも客観的評価結果の方が,訓練による改善過程をより詳細に表わしていた.一方,摂食・嚥下機能の総合評価(水のみ検査,VF検査,日常摂食・嚥下状況)においても改善がみられた.
以上の結果より,今回の1例では結果的に嚥下関連器官の可動範囲や運動の持続時間の増加に伴って摂食・嚥下機能にも改善が見られ,両者の関連性が推測された.また嚥下関連器官の可動範囲や運動持続時間の測定は摂食・嚥下訓練の改善過程の評価に有用であることが確認された.