下顎歯肉癌の術後に生じた口唇および舌口蓋閉鎖の不全のために嚥下運動が不可能であり,気管カニューレと持続的経鼻胃経管栄養(NG)チューブが留置されていた症例に対して,嚥下補助装置を考案し,嚥下訓練を行った.手術から嚥下補助装置を装着するまで約3ヶ月の間には,口唇の運動が認められなかったものの,装着後約3週間で口唇閉鎖機能が賦活され,嚥下時の口唇閉鎖が可能になった.その結果,咽頭反射を惹起しない細い間欠的経口食道経管栄養(OE)チューブを食道に挿入することが可能となった.OEチューブの挿入練習開始後,7日目にチューブ先端を毎回食道内に留置することが可能となったため,NG法による栄養摂取に加えて,OE法からの摂取も開始した.OE法から必要な栄養を全量摂取することが可能となったため,挿入練習開始後23日目にNGチューブを抜去した.OEチューブ挿入開始後40日目,NGチューブ抜去後17日目に気管カニューレの側管から唾液が吸引されなくなったため,気管カニューレを抜去した.本症例の経過から,口腔腫瘍術後に口唇閉鎖不全をともなう摂食嚥下障害症例に対する,口唇閉鎖機能の賦活のための嚥下補助装置とOE法を組み合わせた治療法の有効性が示唆された.