2002 年 6 巻 2 号 p. 131-139
測定は必要な情報を獲得する手段です.人は誰でも,日常的に心理的測定を行い,心理的測定の専門家です.また,物理的測定をも行い,両測定に基づいて生活を営み,動物の中ではもっとも優れた適応をしています.通常,物理的測定の結果と心理的測定の結果とは一致しており,両者の間には整合性があります.心理的測定には,測定器具が要らないので,物理的測定より簡便で,すばやく測定できるので,整合性があることは大変都合がよいことです.
物理学的測定の特色の1つは,測定に際して,単位を設定することです.そして,その単位を用いて対象を計り取ります.物理学的測定による結果は,測定する人,時,所によらず変わりません.すなわち,不変性を示します.そして,測定に基づいて物理学,物理学的世界像を創造します.
次いで,心理学的測定が必要であることを,物理学的測定との関係を考えながら系統的に述べました.心理学的測定と物理学的測定との間に整合的関係がある場合,非整合的関係がある場合,物理学的量はありますが,心理学的量がない場合,逆に,心理学的量は存在するのですが,それに対応する物理学的量が存在しない場合とお話しを進めました.最後に,心そのものの働きを測定する心理学的測定について述べました.
心理学的測定が必要であることを述べたところで,心理学的測定の特色を考えることにしました.物理学的測定と異なる心理学的測定のもっとも基本的な特色は,測定に当たって,必ずしも単位を設定しないことです.物理学的測定の立場からすると考えられないことです.しかし,この特色は心理学的測定の固有の事情によるもので,物理学的測定とはこの点で性格が異なる測定が行われることを指摘しました.そして,この事情を考慮して,心理学的測定,心理学実験が計画されていることに触れました.