日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
6 巻, 2 号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
総説
  • Robert M.MILLER
    2002 年6 巻2 号 p. 117-123
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー
  • Jacqueline Bolders FRAZIER
    2002 年6 巻2 号 p. 124-130
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー
  • ―こころの働きを知る一ステップ―
    今井 四郎
    2002 年6 巻2 号 p. 131-139
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    測定は必要な情報を獲得する手段です.人は誰でも,日常的に心理的測定を行い,心理的測定の専門家です.また,物理的測定をも行い,両測定に基づいて生活を営み,動物の中ではもっとも優れた適応をしています.通常,物理的測定の結果と心理的測定の結果とは一致しており,両者の間には整合性があります.心理的測定には,測定器具が要らないので,物理的測定より簡便で,すばやく測定できるので,整合性があることは大変都合がよいことです.

    物理学的測定の特色の1つは,測定に際して,単位を設定することです.そして,その単位を用いて対象を計り取ります.物理学的測定による結果は,測定する人,時,所によらず変わりません.すなわち,不変性を示します.そして,測定に基づいて物理学,物理学的世界像を創造します.

    次いで,心理学的測定が必要であることを,物理学的測定との関係を考えながら系統的に述べました.心理学的測定と物理学的測定との間に整合的関係がある場合,非整合的関係がある場合,物理学的量はありますが,心理学的量がない場合,逆に,心理学的量は存在するのですが,それに対応する物理学的量が存在しない場合とお話しを進めました.最後に,心そのものの働きを測定する心理学的測定について述べました.

    心理学的測定が必要であることを述べたところで,心理学的測定の特色を考えることにしました.物理学的測定と異なる心理学的測定のもっとも基本的な特色は,測定に当たって,必ずしも単位を設定しないことです.物理学的測定の立場からすると考えられないことです.しかし,この特色は心理学的測定の固有の事情によるもので,物理学的測定とはこの点で性格が異なる測定が行われることを指摘しました.そして,この事情を考慮して,心理学的測定,心理学実験が計画されていることに触れました.

  • 成田 健一
    2002 年6 巻2 号 p. 140-147
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー
  • 高木 晶子
    2002 年6 巻2 号 p. 148-150
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー
原著
  • ―筋電図信号の周波数解析を用いた検討―
    野原 幹司, 舘村 卓, 藤田 義典, 尾島 麻希, 小谷 泰子, 佐々生 康宏, 和田 健
    2002 年6 巻2 号 p. 151-157
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    目的:鼻咽腔は,発音,blowingといった呼吸性活動時および嚥下時ともに閉鎖されることから,いずれの運動も鼻咽腔閉鎖運動と呼ばれている.そのため臨床では,呼吸性活動時と嚥下時の鼻咽腔閉鎖は区別されないことがある.しかしながら,呼吸性活動時の閉鎖は,肺からの呼気を口腔へ流すために行われる生後の学習の要素が大きく関与する運動である.一方,嚥下時の閉鎖は,食塊が口腔から咽頭へ通過するときに行われる先天的に完成された運動である.したがって,呼吸性活動時と嚥下時では,閉鎖運動という点では共通するものの,異なる調節機構が働くことが推察される.本研究では,口蓋帆挙筋を対象に,発音時,blowing時および嚥下時の鼻咽腔閉鎖の調節機構の相違を,筋電図のmean power frequency(MPF) を指標に検討した.方法:健常成人4名を対象に,/pu/発音時,最強blowing時,唾液嚥下時の口蓋帆挙筋筋電図を採取した.得られた筋電図信号を周波数解析することによりMPFを求め,各被験活動のMPFを比較した.結果:発音時とblowing時のMPFは有意差が無く,互いに近似した周波数帯に分布することが示された.一方,嚥下時のMPFは,発音時,blowing時と比べて有意に大きく,高い周波数帯に分布することが示された(t検定:p<0.001).MPFは,筋収縮に参加する運動単位の組成を反映するとされる.このことから,呼吸性の活動である発音時とblowing時の口蓋帆挙筋の収縮には,同じ組成の運動単位が動員されるものの,嚥下時には,呼吸性活動と異なる運動単位が関与する可能性が示された.考察:本研究の結果,嚥下時には呼吸性活動と異なる口蓋帆挙筋の調節機構が働く可能性が示唆された.このことから,鼻咽腔閉鎖機能の評価および閉鎖不全の治療には,呼吸性活動と嚥下を独立させて考える必要性が示唆された.

  • 佐藤 新介, 藤島 一郎, 薛 克良, 片桐 伯真, 稲生 綾, 水間 正澄
    2002 年6 巻2 号 p. 158-166
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
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    嚥下障害患者100名に対し喉頭ファイバースコープ検査(以下ファイバー)を施行し,ゼリーの残留量,唾液梨状窩貯留,唾液喉頭流入及び喉頭の感覚を評価した.喉頭の感覚の評価法としてファイバー先端を喉頭蓋喉頭面の中央部(上喉頭神経領域)に接触させ,患者から得られたファイバー接触時の主観的感覚及びその反応(以下,喉頭感覚)を,「感覚なし又は微かに判る」の感覚不良群,「はっきり判る又は嚥下反射や逃避反応を示す」の感覚良群の2群に分類した.更に各患者について摂食時の体幹角度の設定,ファイバー検査時におけるゼリーの残留量,唾液梨状窩貯留,唾液喉頭流入,嚥下造影(Videofluoroscopy:以下VF)時におけるゼリーの残留量,誤嚥の所見及び経口摂取の程度を示す嚥下グレード(藤島),肺炎発症の有無を調査し,喉頭感覚との関連性を検討し,以下の知見を得た.①VF上の誤嚥,嚥下グレード,肺炎の有無と喉頭感覚には有意な関連が認められた.②他のファイバー所見(ゼリーの残留量,唾液梨状窩貯留,唾液喉頭流入)やVF上の誤嚥と嚥下グレード,肺炎の有無には一貫した関連は認められず,喉頭感覚が最も相関性が高かった.③ファイバーによる喉頭感覚評価は嚥下障害患者の予後予測としての経口摂取の可能性,誤嚥性肺炎の危険性を考える上での新たな指標となり得ることが示唆された.

  • 松永 和秀, 大部 一成, 大石 正道
    2002 年6 巻2 号 p. 167-178
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    舌部切除後二次的片側頚部郭清術を施行した症例および舌の再建術を施行した舌癌患者12例の摂食・嚥下機能評価をおこなった.本研究では切除された舌骨上筋群および再建方法と嚥下機能との関連性と術前の嚥下機能を基準に術後の経時的嚥下機能の変化を検討した.

    1)舌可動部亜全摘再建症例および舌亜全摘再建症例は,術前においても舌運動機能および検査食の移送が困難であった.

    2)舌部切再建症例および舌半切再建症例は,術後経時的に舌による食塊の移送力に改善がみられた.舌可動部亜全摘再建症例および舌亜全摘再建症例は,粘稠性の高い検査食の舌による食塊の移送は困難であった.

    3)片側の顎二腹筋前腹・後腹,顎舌骨筋,オトガイ舌骨筋および舌骨舌筋を同時に切除すると舌骨の前方への挙上に制限がみられ,液状の検査食で喉頭侵入がみられた.また両側の顎二腹筋前腹・後腹,顎舌骨筋,オトガイ舌骨筋および舌骨舌筋を同時に切除すると舌骨の前上方への挙上に制限がみられ,液状の検査食で喉頭侵入が認められた.

    4)舌可動部亜全摘再建症例の再建方法については,皮弁と口蓋が接触するような十分な大きさの皮弁で再建をおこなうことで,検査食の口腔内残留量を少なくすることができた.

    5)舌亜全摘再建症例の再建方法については,口峡部をできるだけ狭くするようにし,かつ皮弁と口蓋が接触するような十分な大きさの皮弁で再建をおこなうことで,液状の口腔内保持が可能でかつ,口腔内残留量を少なくすることができた.

    6)50Gyの術後放射線治療をうけた症例は,術後1か月目嚥下反射の遅延にともなう液状検査食の誤嚥を認めたが,術後6か月目には誤嚥は認めなかった.

  • 松尾 浩一郎, 才藤 栄一, 武田 斉子, 馬場 尊, 藤井 航, 小野木 啓子, 奥井 美枝, 植松 宏, Jeffrey B PALME ...
    2002 年6 巻2 号 p. 179-186
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    【目的】咀嚼時には嚥下反射開始前に中咽頭へと食塊が送り込まれ,特に,液体を含む食物を咀嚼嚥下すると食塊は高頻度に下咽頭にまで達する.この嚥下反射開始前に起こる下咽頭への食塊輸送に対する咀嚼と重力の影響を検討した.【対象・方法】健常成人10名を対象に,バリウム水溶液(液体)10ml,バリウム含有コンビーフ(コンビーフ)8g,液体5ml・コンビーフ4gの混合物(混合)を座位,よつばい位の2体位で咀嚼させ,ビデオ嚥下造影(VF)を各2回ずつ試行した.VF像を解析し,「嚥下反射開始時点の食塊先端の位置(食塊先端位置)」を同定し,以下の4つに分類した.1)口腔内Oral Cavity(以下,OC);2)中咽頭上部Upper Oropharynx(以下,UOP:口峡から下顎下縁まで);3)喉頭蓋谷部Valleculae(以下,VAL:下顎下縁から喉頭蓋谷まで);4)下咽頭部Hypopharynx(以下,HYP:喉頭蓋谷を越えて下咽頭に達したところ).また,嚥下反射時の食塊先端の深達度を以下の3段階に分けた後に比較検討した.1)中咽頭部以降:UOP+VAL+HYP(UOP or more,以下UOP-om),2)喉頭蓋谷部以降:VAL+HYP(VAL or more,以下VAL-om),3)下咽頭部HYP.【結果】1.座位:嚥下反射開始直前の食塊の深達度はVAL-omで,混合と他の2食物間で有意差を認めた.さらにHYPでは,全食物間で有意差を認めた.2.よつばい位:食物の違いによる深達度の有意差を認めなかった.3.座位とよつばい位の比較:コンビーフでは,体位を変化させても食塊先端位置の分布はほとんど変わらなかった.液体では有意な差は認めなかったもののよつばい位においてHYPまで達する頻度が減少傾向にあった.混合では,座位に較べ,よつばい位でVAL-om,HYPに達する率が有意に減少した.【考察】嚥下開始前に生じる咽頭への輸送には,舌による能動的輸送と重力による受動的輸送の両者が関与しており,特に下咽頭への進行には受動的輸送が重要と思われた.喉頭閉鎖機構の障害をもつ摂食・嚥下障害者では,嚥下開始前の咽頭へと食塊の輸送が誤嚥に結びつく危険性があり,混合物の咀嚼負荷が負荷テストとして,有用であることが示唆された.

  • ―喉頭運動・筋電図・嚥下音の同時計測による評価―
    林 豊彦, 金子 裕史, 中村 康雄, 石田 智子, 高橋 肇, 山田 好秋, 道見 登, 野村 修一
    2002 年6 巻2 号 p. 187-195
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    嚥下機能障害者の嚥下機能を無侵襲かつベッドサイドで検査することを目的として,著者らは,喉頭運動・舌骨上筋群筋電図・嚥下音の同時計測システムを開発してきた.本論文ではこのシステムを,嚥下障害者の代表的な食品である“お粥”の嚥下動態の定量解析に応用した.

    嚥下障害を扱う臨床では,患者がどのくらい簡単にお粥が飲み込めるかを評価する方法が強く求められている.そのような評価法には,従来次の3つがある:1)物性測定;2)官能検査;3)生理学的データの計測.著者らはこれまで,一般的なお粥である“全粥”と付着性の低い嚥下困難者用 “ふっくらおかゆR”((株)亀田製菓)の飲み込みやすさを,方法1)と2)で評価してきた.そこで本研究では方法3)を応用し,前記2種類のお粥の嚥下を生理学的に評価する.被験者は嚥下障害の症状が認められない健常男性7名とした.お粥の量と温度はそれぞれ5g,60℃に規格化した.実験の結果を次に示す:ふっくらおかゆR嚥下時は全粥嚥下時に比べて,A)喉頭がより速く挙上(特に運動初期);B)舌骨上筋群の筋活動が少ない.これらの結果A)とB)は,それぞれ危険率5%,1%で統計学的に有意であった.両結果から,ふっくらおかゆRは一般的な全粥よりも簡単かつ効率的に飲み込むことができることが分かった.さらに,我々の計測システムは嚥下動作の無侵襲かつ定量的な評価に有効であることも明らかになった.

  • 戸原 玄, 才藤 栄一, 馬場 尊, 小野木 啓子, 植松 宏
    2002 年6 巻2 号 p. 196-206
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    現在,摂食・嚥下障害の評価法では嚥下ビデオレントゲン造影(Videofluorography;以後VF)が gold standardとして広く認知されている.VFは誤嚥の有無のみならず嚥下関連器官の形態・機能異常すなわち静的および動的異常を観察でき,信頼性の高い摂食・嚥下障害の診断を可能とする有用な検査法であり,設備を持つ施設においては摂食・嚥下障害が疑われる患者に対しほぼルーチンに行われている.しかし実際にはVFに必要な設備を持たない施設は多く,問題があれば経管栄養を選択せざるを得ず,摂食・嚥下障害の評価,対応が適切になされているとは言い難い.このため,医療,福祉の現場からはVFを用いない簡便な臨床的検査法を求める声が高かった.平成11年度厚生省長寿科学研究「摂食・嚥下障害の治療・対応に関する統合的研究(主任研究者:才藤栄一)」において,改訂水飲みテスト,食物テスト,および嚥下前・後レントゲン撮影といった臨床検査の規格化とそれらを組み合わせたフローチャート,および摂食・嚥下障害の重症度分類が作成された.何らかの摂食・嚥下障害を訴えた63名の患者に対し,VFと各臨床検査を行い,食物を用いた直接訓練開始レベルの判定が本フローチャートにより可能であるかについて,実際のVF結果との比較検討を行った.各臨床的検査のカットオフ値は妥当であり,フローチャートの感度,特異度,陰性反応的中度,一致率は極めて高かった.よって直接訓練開始可能レベルの判定において,フローチャートは有用であると考えられた.また安全性も高く特にVFを持たない施設において有用であると結論できた.

  • ―口蓋床の厚みが嚥下時舌運動に与える影響―
    萬屋 陽, 田村 文誉, 向井 美惠
    2002 年6 巻2 号 p. 207-217
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    舌接触補助床 (PAP) は嚥下障害を有する患者の舌機能低下を補う上で非常に重要である.この研究は舌機能評価の一助となる方法を確立することと義歯口蓋部の厚みの変化が嚥下時舌運動に及ぼす影響を解明することを目的とした.対象は成人10名(男性10名:平均年齢26.5歳)である.2種類の異なった厚み(1 mmと5 mm)の口蓋床を健康成人男性10名に作製した.圧センサを口蓋床の前方,側方,中央,後方部に埋め込み,被験食品(かぼちゃペースト3g)を嚥下した時の舌圧を測定した.その結果,以下の知見を得た.

    1.圧センサ付き口蓋床と超音波エコーのM/Bモードによる同一時間軸における測定システムにより,捕食から嚥下に至るまでの各部位における舌圧値および舌圧発現頂序の精度の高い解析が可能となった.

    2.「嚥下時最大舌圧」は,厚みが増すことにより,前方部で小さくなる傾向を示した.後方部では,前方部と逆に大きくなる傾向を示した.

    3.「嚥下時舌口蓋接触時間」は,厚みが増すことにより,前方部で短くなる傾向を示した.後方部では,前方部と逆に長くなる傾向を示した.

    4.「圧力積」は,口蓋床の厚みが増すことにより,前方部において小さくなる傾向を示した.後方部では,前方部と逆に大きくなる傾向を示した.

    5.各センサ部位における「嚥下時舌圧発現順序」は,1 mmの口蓋床において10名中6名,5 mmにおいては7名の者が前方部から舌圧が発現し,すべての者が前方部または側方部から舌圧が発現した.また,厚みに関わらず10名中6名の者は同様の発現順序であった.

    6.各センサ部位における「嚥下時最大舌圧発現順序」は,「嚥下時舌圧発現順序」より個人による差が大きく,一定の傾向は認められなかった

臨床報告
  • 鈴木 正浩
    2002 年6 巻2 号 p. 218-224
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    食事摂取量の変動が大きかった一症例を経験した.今回本例の食事摂取量の追跡を3か月間行ない,その食事摂取量にみられた変動の要因として食事の介助方法に着目し,介助方法の違いによって摂取量に影響が生じうるのかを検討した.[症例]74歳女性.入院時,嚥下障害 (才藤分類にて4/7:機会誤嚥),左半側空間無視,発動性低下,モリアなどが見られた.入院当初は経口摂取していたが,状態悪化に伴い約1か月間絶飲食となった.その後経口摂取再開となるも,食事時の絞扼反射亢進やoral dyskinesia等が出現し摂取量の変動が著明となった.[方法]摂取量の比較は昼食を対象とした.本例の介助はSTが週4回,病棟職員が週3回実施.摂取量測定は担当看護師が主・副食別に目測法 (上限10割) にて行ない,両者を合計した値を摂取量とした (10口で約1割を目安とした).病棟職員は体位と一口量に留意した介助が中心 (工夫なし) で,ST介助ではこれに加えて①臼後三角部刺激による開口介助,②スプーン挿入を浅くして絞扼反射の惹起を防止,③口唇での捕食を毎回促し健側より引抜くなどの工夫を加えた (工夫あり).[結果]本例の平均摂取量は工夫あり時に有意な増加を示していた.また工夫あり時では,2~3か月目にかけて摂取量の安定化傾向が認められた.[考察]食事摂取量の追跡は有意義であった。そして上記のような「工夫」は本例にとって有効であったと思われる.今回の結果は介助方法の違いが摂取量に影響しうることを示唆している.つまり,食事介助上の工夫を患者の症状に応じて個別に立案し実践していくことは,食事介助を治療的介入の一手段として捉えることであり重要である.またその実践に向けては,チームメンバーの食事介助への意識づけや技術の習得が必要であるとともに,この領域の更なるデータの蓄積が必要であるといえる.

  • 横井 輝夫, 郷間 英世
    2002 年6 巻2 号 p. 225-228
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    重症心身障害児・者の異常な嚥下パターンは,舌突出嚥下とそれが極端になったと考えられている逆嚥下以外報告されていない.今回,3歳から55歳までの92名の重症児・者の食事場面を外部観察により嚥下パターンを抽出し,それらの機序の解釈を試みた.結果,(1)「口唇を閉じて嚥下」,(2)「逆嚥下」,(3)「舌を上口唇と下口唇の間に挿入して嚥下」,(4)「舌を上歯列と下歯列の間に挿入して嚥下」,(5)「舌を上歯列と下口唇の間に挿入して嚥下」,(6)「上歯列で下口唇を軽く噛んで嚥下」,(7)「口唇は閉鎖せず,上歯列と下歯列を接触させて嚥下」,(8)「開口の状態で,舌尖部を上歯列の舌側に接触させて嚥下」,(9)「開口の状態で,舌尖部を下歯列の舌側に接触させて嚥下」,(10)「舌は口腔内で,わずかに開口して嚥下」が確認された.重症児・者の多くは哺乳のための乳児嚥下から摂食のための成人嚥下へ発達する離乳中期までの口腔機能に停滞していると報告されており,10通りのパターンは乳児嚥下と成人嚥下の機能の一部を用いて新しい食環境に適応するために生じたものとも考えられる.乳児嚥下と成人嚥下の条件は共に“舌の固定”,“顎位の安定”,“口腔前方部の閉鎖に伴う口腔の隔離”であると考えられ,この3条件について観察されたパターンを検討した.「逆嚥下」は3条件全てを満たさない特異なパターンであり,その他の舌突出嚥下の(3),(4),(5)は単に舌突出の程度の相違ではなく,3条件を満たすための舌,口唇,及び歯列の用い方の相違であると考えられた.また,(8),(9),(10)は“口腔前方部の閉鎖に伴う口腔の隔離”は満たしていないが,「逆嚥下」以外の残りの6パターンと同様に“舌の固定”と‘顎位の安定”は満たしている.つまり,多様にみえるパターンは,“口腔前方部の閉鎖に伴う口腔の隔離”による誤嚥の予防よりも,食物の摂取を優先するために“舌の固定”と“顎位の安定”を図る結果,生じたものと推論された.

  • 野原 幹司, 舘村 卓, 藤田 義典, 尾島 麻希, 小谷 泰子, 佐々生 康宏, 和田 健
    2002 年6 巻2 号 p. 229-235
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    【目的】末梢の器質的かつ機能的障害を有する口腔腫瘍術後の嚥下障害例に対して,中枢性の嚥下障害例に用いられている間欠的経口食道経管栄養法 (Intermittent oro-esophageal tube feeding:OE法) が有効かどうかを検討した.

    【方法】姿勢のコントロールでは誤嚥や送り込みの障害が改善されず経口摂取が困難であった口腔腫瘍術後症例6例に対して,OE法の適用を試みた.各症例の術後から経口摂取が開始されるまでの経過を検討した.

    【結果】咽頭反射が強かった1例を除く,6例中5例でOE法の適用が可能であった.OE法が適用可能であった症例は,持続的経鼻胃経管栄養法や中心静脈栄養法から解放された.OE法を適用することにより,嚥下機能が改善したと考えられる症例があった.

    【結論】OE法は,中枢性の嚥下障害例と同様に口腔腫瘍術後の嚥下障害例にも適用可能であり,嚥下機能を改善する効果がある可能性が示唆された.

研究報告
  • ―正常嚥下での検討―
    峯下 圭子, 星野 由香, 和田 満美子, 金井 日菜子, 奥平 奈保子, 豊田 耕平, 藤谷 順子, 丸目 正忠
    2002 年6 巻2 号 p. 236-241
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    頸部突出位が咽頭期嚥下に与える影響について検討するために,健常男性20名に嚥下造影検査を実施し,習慣位(通常の嚥下姿勢)と頸部突出位とを比較した.その結果,以下の知見を得た.

    1.咽頭期の各指標では,喉頭移動距離,食道入口部の開大幅と開大時間が頸部突出位で有意に増加した(P<0.05).咽頭通過時間および舌骨移動距離には姿勢による有意差はなかった.

    2.梨状窩の形状変化については,頸部突出により,梨状窩が広がり深くなった者が11名,幅は変わらず深くなった者は7名だった.

    3.誤嚥はいずれの姿勢でも認められなかったが,喉頭侵入が習慣位で5名,頸部突出位で7名に認められた.喉頭蓋谷への残留は習慣位で3名,頸部突出位で1名に認められた.梨状窩への残留は習慣位で4名に認められたが,頸部突出位では残留が認められなかった.

    以上の結果より,頸部突出位では,食道入口部の開大幅や開大時間が増加し,梨状窩が広がることにより,症例によっては嚥下に有利となる可能性が考えられた.しかし,健常者においても,頸部突出位では喉頭侵入を生じることがあり,誤嚥の危険性が高まる可能性があることも示唆された.

  • 武原 格, 杉本 淳, 上久保 毅, 藤谷 順子, 宮野 佐年, 猪飼 哲夫, 西 将則
    2002 年6 巻2 号 p. 242-246
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下造影検査は,水平面の撮影が出来ないため食塊の前後左右への広がりについての情報は少ない.また嚥下内視鏡検査は,嚥下の瞬間は咽頭収縮により観察が出来ない.今回我々は,ヘリカルCTを用いて嚥下の動的評価を試みた.

    【対象と方法】健常成人9名を対象とした.体位は,仰臥位・頚部正中位とした.ヘリカルCTは,SIEMENS社製SOMATOM Plus 4を用いた.CTスキャンは,6秒間施行し,0.1秒毎に評価を行った.声門レベルおよび食道入口部レベルのそれぞれの高さで撮影を行った.各被験者は,空嚥下およびバリウムゼリー摂食,3ml,15mlのバリウム溶液嚥下を施行した.

    【結果】声門レベルにおいて嚥下中声門は閉鎖し両側梨状窩は狭小化していた.バリウムゼリー摂食時は,バリウムゼリーが両側梨状窩の正中を通過し,その後咽頭収縮が起こり,両側梨状窩は狭小化した.嚥下中は喉頭挙上により食道入口部が描出された.バリウムゼリー摂食にて嚥下中にバリウムゼリーが食道入口部の正中を通過しているのが描出された.食道入口部の最大開口面積は,空嚥下よりもバリウム溶液3ml,バリウム溶液3mlよりも15mlにおいて大きくなっており,矢状径のみならず横径も食塊量増加とともに拡大していた.

    【考察】ヘリカルCTを用いた連続ダイナミックスキャンでは水平面における嚥下の瞬間が撮影可能である.空嚥下と食塊嚥下の比較,食道入口部の開口の程度など嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査にはない,新たな視点で嚥下動態を評価可能と思われる.

  • 冨田 かをり, 田村 文誉, 水上 美樹, 向井 美惠
    2002 年6 巻2 号 p. 247-251
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    <目的>

    1.高齢者用介助スプーンのボール部の幅および深さの違いによる捕食時の残留の違いを明らかにする.

    2.捕食時の残留の少ないボール部形態をもつ高齢者用介助スプーンを試作し,適切な一口量を供することができるかどうか検討する.

    <方法>

    (実験1)介護老人福祉施設において,入居している高齢者11名を対象に介助スプーンのボール部の幅が30mm,35mmの2種類のスプーンを試作し,介助下で捕食させた際のスプーン上の残留を比較検討した.

    (実験2)介護老人福祉施設において,入居している高齢者11名を対象に介助スプーンのボール部の深さが3mm,5mmの2種類のスプーンを試作し,介助下で捕食させた際のスプーン上の残留を比較検討した.

    (実験3)実験1,2の結果に基づいて試作したスプーンを用いて,施設で働く介護職8名を対象に1回にすくう量について測定し,施設で日常使っているスプーンと比較検討した.

    <結果>

    1.スプーンボール部の幅は35mmより30mmにおいて,捕食時のスプーン上の相対的残留が有意に少なかった.2.スプーンボール部の深さは5mmより3mmにおいて捕食時のスプーン上の相対的残留が有意に少なく捕食しやすいことが示された.3.介護者がスプーンで1回にすくう量はボール部の形態によって有意に変わった.4.同一介護者がすくう量のばらつき,および介護者間のばらつきが,ボール部形態の工夫によって有意に小さくなった.

    これらの結果より,スプーンボール部の形態によって捕食しやすさが変わること,および安定した適切な一口量を介助できる可能性が示唆された.

  • ―日常生活自立度,口腔衛生状態,および義歯による安定した顎位との関係―
    田村 文誉, 水上 美樹, 小沢 章, 武井 啓一, 足立 三枝子, 米山 武義, 向井 美惠
    2002 年6 巻2 号 p. 252-258
    発行日: 2002/12/30
    公開日: 2020/08/20
    ジャーナル フリー

    無歯顎の要介護高齢者45名を対象とし,義歯による安定した顎位の有無を要因として,要介護者に対する歯科衛生士の専門的な口腔のケアが,日常生活自立度 (ADL) や口腔衛生状態に及ぼす効果について調査,検討した結果,以下の知見を得た.

    1.ロ腔内状態 対象者の口腔内状態は全て無歯顎であり,義歯による安定した顎位のとれる者 (義歯あり群) が45名中20名 (44.4%),とれない者(義歯なし群)は25名 (55.6%) であった.

    2.日常生活自立度 1)「食事」について 完全に自立して食事をしているランク1の者は,介入前には義歯あり群で20名中15名(75.0%),4か月後では17名(85.0%)と非常に多くみられた.一方義歯なし群では,一部介助であるランク3が25名中それぞれ9名 (36.0%),8名 (32.0%) と多くみられた.介入前および4か月後において,義歯あり群と義歯なし群間に有意差がみられた (p<0.05).

    2)「コミュニケーション」について 家族でもコミュニケーションを図るのが困難なランク3,あるいは全くコミュニケーションが図れないランク4の者は,介入前には義歯あり群でそれぞれ3名 (15.0%),1名(5.0%),義歯なし群では5名 (20.0%),6名 (24.0%) であり,両群間に有意差がみられた (p<0.05).一方4か月後では,両者ともにランク4の者はみられなくなり,義歯なし群では介入前と4か月後との間に有意差がみられた (p<0.05).

    3.ロ腔内所見について 1)「舌苔」について 中等度の舌苔の付着がみられたランク3と多量の付着がみられたランク4の者は,介入前には義歯あり群ではそれぞれ7名 (35.0%),0名,義歯なし群では14名 (56.0%),2名 (8.0%) であった.4か月後では,義歯あり群ではランク3,4の者はそれぞれ0名,1名 (5.0%),義歯なし群ではそれぞれ6名 (24.0%),0名であった.義歯あり群,義歯なし群のどちらにおいても,介入前および4か月後との間に有意差がみられた (p<0.05).

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